About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)
Year: 1951
Material: Oak, Teak, Walnut, Plywood
Size: 幅73 × 奥行53 × 高さ77 cm(座面高37 cm)
Story
CH28「ソーバックチェア」は、ハンス・J・ウェグナーが1951年にデザインし、1952年より製造が始まったラウンジチェアです。名前の由来となった「ソーバック(Sawbuck)」とは、大工が木材を切る際に使う木挽き台のことを指し、A字型に開いた脚部の構造がその形を想起させます。職人道具の名称をあえて作品に冠した点に、ウェグナーが自身のアイデンティティを家具職人に根ざしていたことが表れています。
本作の魅力は、無垢材のフレームと成形合板の背座との調和にあります。強固なフレームが椅子全体を支えつつ、薄くしなやかなプライウッドが軽快さと柔らかさを添えています。この素材の組み合わせは、伝統的な木工と近代的な技術の融合を象徴しており、ウェグナーが常に新しい技術を柔軟に取り入れた姿勢を示しています。
アームレストは彫刻的かつ有機的な造形で、手に馴染む滑らかなラインを描きます。そのデザインは視覚的な軽やかさとともに、長時間快適に座れる機能性を備えています。また、座面を固定する木製ボタンや、構造を隠さず見せる継ぎ手の意匠は、ウェグナー特有の「誠実さ」の哲学を体現しています。
CH28には木製シェルの「CH28T」と、革や布で張られた「CH28P」の2つのモデルがあります。前者は木材の対比が際立ち、後者はより柔らかな印象と快適性を追求した仕様となっています。素材の組み合わせも、当初はオークとチークが主流でしたが、現行品では持続可能なウォールナットとオークが採用されています。
同時期に発表されたCH29「ソーバックダイニングチェア」との関係も見逃せません。両者は脚部の構造を共有しており、ラウンジとダイニングという異なる機能に応用されています。この「主題と変奏」とも言えるデザインの展開は、ウェグナーの体系的なアプローチを示す好例です。
CH28は、家具としての堅牢性と美的完成度を兼ね備え、現代に至るまで高く評価され続けています。それは単なる一脚の椅子に留まらず、ウェグナーの哲学が凝縮された「責任あるデザイン」の象徴と言えるでしょう。

