About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)
Year: 1956
Material: Oak, Teak, Rattan
Size: W 52 × D 50 × H 81 (cm)
Story
1950年代のデンマークで熟成したモダンの文脈の中で、CH31はウェグナーの「軽さ」と「誠実な構造」を正面から体現したダイニングチェアです。量産メーカーとの協働を前提に、部材の合理性と座り心地の両立を狙った設計思想が、端正で普遍性のあるフォルムに結晶しています。
東洋古典家具からの学びを抽出した細身のプロポーションは、過度な装飾を避けつつも緊張感を保ちます。背柱の立ち上がりと笠木のラインは、身体を受け止める面の角度と厚みが丁寧に調整され、座面と背に配された籐(ラタン)が視覚重量を減じて全体を軽やかに見せます。
フレームはオークとチークを中心に展開され、同じ設計でも印象は大きく異なります。オークは木理の躍動と籐の素朴さが呼応して骨格の力強さを際立たせ、チークは緻密で油分のある質感がラタンの編地と溶け合い、落ち着いた陰影を生みます。材の選択が使い手の環境に応じた「空間との馴染み」を決定づける点も、本作の魅力です。
籐は座と背で役割が分けられ、張力設計と目の配列によって機能と表情を両立します。特に背は前後二重張りとする個体があり、局所的な荷重に対する耐久を高めると同時に、背越しの透け感が空間の抜けをつくります。面と線、硬質と柔軟の対置を穏やかに解消するこのテクスチャーの設計は、ウェグナーの有機的機能主義を端的に語ります。
直線基調の脚・貫構成は製作と整備を容易にしつつ、要所に面取りやテーパーを与えることで触感と陰影を細やかに制御します。座角・背角の設定は食事姿勢に最適化され、長時間の着座でも身体の負担を抑えるよう配慮されています。結果として、CH31は造形の抑制と座り心地の充実が高いレベルで両立した、日常使用に耐える「静かな名作」として成立しています。
量産に足る合理性を追求しながら、手仕事の緻密さを要する籐張りや木部の精度管理が求められる点に、この椅子の特質があります。工業化とクラフトの継ぎ目に置かれた設計思想こそ、CH31の個性であり、今日に至るまで色褪せない価値を担保しています。

