About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)
Year: 1960
Material: Solid Beech, Stainless Steel, Fabric or Leather
Size: W94 × D94 × H105 × SH40 × AH65 cm
Story
CH468 オキュラスチェアは、ハンス・J・ウェグナーが1960年に設計したフルアプホルスタリーのラウンジチェアであり、その造形は彫刻的とも形容されます。デザイン当初は量産されることなく、約50年間アーカイブに眠っていましたが、2010年にカール・ハンセン&サンによって復刻されました。この空白の時間は、ウェグナーの構想が当時の製造技術や市場の潮流を先取りしていたことを示しています。
背もたれ上部に生まれる柔らかな膨らみと、ステンレススチール製の脚部との対比は、重厚さと軽快さを同時に表現しています。「Oculus(目)」という名は、背もたれに描かれる独特の曲線に由来し、座る人を包み込むような安心感を生み出します。ウェグナーが追求した人間工学的設計は、背中から頭部までを的確に支える構造を持ち、深いリラックスを提供します。
内部構造は無垢のビーチ材フレームとコールドフォームクッションで構成され、耐久性と柔らかさを兼ね備えています。座面とアームレストの角度は慎重に計算され、自然な後傾姿勢を促します。ステンレススチールの脚はわずかに傾斜しており、重心を後方に導くことで、理想的な座り心地を実現しています。
2010年の再発売は、ウェグナーの未発表デザインを現代の技術で蘇らせた象徴的な出来事でした。復刻に際しては、ウェグナースタジオに保管されていた原寸図面とプロトタイプを基に、形状と構造を忠実に再現。高度な金属加工と成形技術によって、ようやく彼の理想的なフォルムが現実のものとなりました。
今日、CH468はラウンジやホテルロビーなどで多く採用され、その存在感は空間に穏やかな緊張と美しさをもたらします。同時期のCH445 ウイングチェアと並び、ウェグナー後期の彫刻的デザインを代表する傑作として、高い評価を受け続けています。
この作品は、機能と造形の融合というウェグナーの哲学を最も純粋な形で体現した一脚です。背もたれの曲線は「目」を象りながら、空間に視覚的な焦点を生み、同時に座る人に安息を与えます。デザインから半世紀を経てもなお新鮮さを失わず、デンマークモダンの理念を静かに語り続ける永遠のアイコンです。