About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)
Year: 1960
Material: Oak, Beech, Upholstery (Wool / Leather)
Size: 幅 63cm × 奥行き 50cm × 高さ 77cm
Story
CH52アームチェアは、1960年代初頭にハンス・J・ウェグナーがデザインした、シンプルかつ精緻な構造を持つ作品です。直線と曲線を巧みに組み合わせた端正なシルエットは、シェーカー様式の伝統を踏まえつつ、モダンな解釈を与えたもので、ウェグナーが生涯追求した「有機的機能主義」の精神を体現しています。
背もたれは緩やかにカーブし、背中を自然に支える構造となっています。長時間の着座に耐えうる快適性が考慮されており、アームの角度や座面の奥行きも丹念に設計されています。特に人間工学的な配慮は、椅子が単なる道具ではなく「人と調和する存在」であるべきだというウェグナーの哲学を映し出しています。
素材にはオークやブナといった無垢材が用いられ、座面と背もたれはウール生地やレザーで張り込みが施されています。この張りぐるみの仕様は、初期のペーパーコード座面(CH24など)と異なり、より柔らかさと豊かな質感をもたらしています。時代の変化に伴う需要に応え、ダイニングチェアとラウンジチェアの中間的な快適さを意識した設計がなされました。
CH52は、ウィッシュボーンチェア(CH24)やザ・チェア(JH503)といった代表作と比較しても、その独自性が際立ちます。前者が軽やかで開放的な印象を与えるのに対し、CH52は張り地を伴うことで落ち着いた存在感を放ち、空間に静謐なアクセントを加えます。
今日では生産が終了しているため、現存するのはすべてヴィンテージ品です。木部の経年変化や張り地の状態が一脚ごとに異なり、まさに一点物の魅力を備えています。修復や張り替えの質によっても印象は大きく変わるため、コレクターや愛好家にとっては選定の妙味がある椅子といえます。
