Chinese Cabinet | チャイニーズ・キャビネット


About

Designer: Børge Mogensen(ボーエ・モーエンセン)
Manufacturer: Søborg Møbler(ソボー・モブラー)
Year: 1944
Material: Oak, Teak
Size: W 120 × D 45 × H 160 cm


Story

1944年、ボーエ・モーエンセンがデザインし、ソボー・モブラーによって製作された「チャイニーズ・キャビネット」は、デンマーク家具職人ギルド展で初めて発表されました。コペンハーゲン家具職人ギルド展は、職人と建築家が共同で新しいデザインを提示する重要な舞台であり、このキャビネットはその中でも特に注目を集めた作品でした。モーエンセンはこの作品を通じて、伝統的な職人技術とモダンな構造美の融合を試みています。

このキャビネットの名称が示す通り、モーエンセンは中国の伝統家具に着想を得ていました。ただし、その影響は装飾的な模倣ではなく、構造的な明快さと比例感の探求という本質的な部分にあります。特に接合部の見せ方や均整の取れたプロポーションは、明朝家具の構造美を機能主義的に再解釈したものでした。

モーエンセンは、師であるコーア・クリントから学んだ「アーキタイプの分析と再構築」の理論を忠実に実践しました。チャイニーズ・キャビネットは、歴史的類型に学びながらも現代生活に即した収納家具として設計されており、後の彼の「ビルディング・ファニチャー」構想の萌芽を示しています。家庭の変化に合わせて組み替えられるモジュール的思考は、すでにこの作品の中に内包されていました。

外観上の特徴として、無垢材から削り出された独特のハンドルと、上下に分割された収納構造が挙げられます。下部は引き出し、上部は扉付きの戸棚構成で、内部には可動棚が備えられています。真鍮の鍵や丁寧に仕上げられた接合部により、機能性と美観が高度に統合されています。また、この時代のモーエンセン作品の中でも珍しく、明確に「東洋美学」への関心が現れている点が特筆されます。

素材にはオーク材やチーク材が用いられ、籐(ラタン)やプライウッドのような軽素材は使用されていません。直線的な構造と無垢材の質感が際立ち、接合部の美しさそのものがデザインの核となっています。これにより、伝統的職人技術の誠実さを保ちつつ、合理的で現代的な造形美を実現しています。

チャイニーズ・キャビネットは、モーエンセンとソボー・モブラーの協業を象徴する初期の傑作であり、のちの「ソボーグ・チェア」シリーズやFDBモブラーの「チャイナシリーズ」へと続く系譜の出発点といえます。その端正な構造と明快な機能性は、デンマークモダンの理念を凝縮した普遍的な作品として、今日も高く評価されています。

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