Drop Chair Model 3110 | ドロップチェア


About

Designer: Arne Jacobsen(アルネ・ヤコブセン)
Manufacturer: Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)
Year: 1958
Material: ABS (injection-molded), cold-cured foam (upholstered type), steel tube
Size: W 45.5 × D 54.5 × H 88.5 × SH 46 cm


Story

ドロップチェア Model 3110は、1958年にアルネ・ヤコブセンがSASロイヤルホテルのためにデザインした小型チェアで、ホテル全体を包括的に設計した「トータルデザイン」の一環として誕生しました。外観の直線的な建築と対比するように、内部には彫刻的な曲線を持つ家具群が配置され、エッグチェアやスワンチェアと並んでドロップチェアが重要な役割を果たしました。

彫刻家のように粘土や石膏で形を探りながら生み出された有機的フォルムは、背と座が一体化した「しずく」形を成し、使用者を優しく包み込みつつも身体の動きを妨げません。背もたれが上部に向かって細くなる設計は、省スペース性と座りやすさを両立し、特にホテルの客室やレストランにおいて高い機能性を発揮しました。

当時導入された硬質フォーム成形技術は、従来の積層合板では不可能だった自由な曲線を実現し、工業生産においても彫刻的デザインを可能にしました。この技術革新は、フリッツ・ハンセンの技術基盤を強化し、ヤコブセンの創造性を大きく広げる要因となりました。

オリジナルはホテル向けの限定生産にとどまり、約200脚のみが製造されたとされます。長く一般市場に出回らなかったことで希少性が高まり、現代においては「隠された名作」として評価されています。2014年に復刻されると、ABS樹脂を用いたプラスチックシェル版や冷間硬化フォームを採用した張り地仕様が登場し、カラーバリエーションや耐久性が強化されました。

ドロップチェアは、空間効率と快適性を両立したデザインであり、ホテル家具としての実用性と、ヤコブセン特有の有機的で彫刻的な美学を融合しています。そのシンプルでありながら個性的なフォルムは、現代の住宅や商業空間でも彫刻的アクセントとして存在感を放ち続けています。

 

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