Egg Chair Model3316 | エッグチェア


About

Designer: Arne Jacobsen(アルネ・ヤコブセン)
Manufacturer: Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)
Year: 1958
Material: Polyurethane foam, Fiberglass, Aluminum, Leather/Fabric
Size: W86 × D79 × H107 × SH37 cm


Story

エッグチェア(モデル3316)は、1958年にアルネ・ヤコブセンがSASロイヤルホテルのためにデザインした作品であり、建築と家具が一体となった総合芸術の象徴です。建物全体の設計からカトラリーや照明に至るまで手掛けたヤコブセンの「トータルデザイン」の理念を体現し、直線的な建築空間に対して有機的な対比をもたらしました。

その特徴的なフォルムは、公共空間における「繭(Cocoon)」を意識した設計であり、開放的なロビーでありながら、座る人にプライバシーと安心感を提供する仕掛けとして機能しました。実際にホテルには多数のエッグチェアが設置され、建築的環境と調和した空間体験を実現しています。

造形は、図面ではなく石膏とワイヤーを用いた彫刻的なプロセスから生み出されました。アルミ製の回転ベースとスチールチューブを組み合わせ、シェル部分は硬質ポリウレタンフォームとガラス繊維補強によって成形されています。この技術革新により、従来の成形合板では不可能であった滑らかな立体曲線が実現されました。

張地には上質なレザーやテキスタイルが用いられ、シェルに密着させるため高度な手仕事が必要とされます。一脚の仕上げには1000針を超える手縫いが施され、工業製品でありながらクラフトマンシップの結晶としての存在感を持ちます。

現代においては、エッグチェアは単なるデザインアイコンに留まらず、フリッツ・ハンセンによる修理・リファービッシュ・再販売といった「ReNEW」プログラムを通じて、循環型デザインの実例として継承されています。耐久性と修理可能性に基づくこの継承戦略は、リサイクル困難な素材を抱えるエッグチェアに現代的な持続可能性を付与しています。

エッグチェアは、建築と家具の境界を超えた存在として、彫刻的美学、快適性、そして革新的素材技術の融合を象徴しています。70年近く経った今日でもなお、オフィスやホテル、家庭空間において、静けさと動きを兼ね備えたユニークな居場所を提供し続けているのです。

 

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