About
Designer: Christian Hvidt(クリスチャン・ヴィット)
Manufacturer: Søborg Møbler(ソボーグ・モブラー)
Year: 1965
Material: Ash(early)、Cherry(mid)、Pine(late)
Size: W 140–260 × D 70–85 × H 72–73 cm
Story
本作は、クリスチャン・ヴィットがソボーグ・モブラーのために設計した三分割式の伸長ダイニングテーブルです。長方形のメイン天板と二つの半円形ユニットからなるモジュール構成によって、日常から来客時まで幅広い生活場面に柔軟に適応します。単体ではコンパクトな食卓や作業台として、結合時には円形あるいは長方形の大きなテーブルとして機能し、必要に応じて拡張できる点が最大の特長です。
この多用途性は、都市居住における限られた床面積を前提に、家具が空間に合わせて可変であるべきという機能主義の思想に根ざしています。三つのユニットは高さを厳密に揃えて設計され、結合部の段差やガタつきを抑えることで一体の水平面を形成します。ソボーグ・モブラーの高い加工精度が、この継ぎ目の少ない体験を支えています。
構造面ではT字型断面の脚部が採用され、見た目の軽やかさを保ちながら必要十分な曲げ剛性とねじり剛性を確保します。断面のウェブとフランジが荷重を合理的に受け持つため、伸長時のスパン増大に対しても安定性を維持しやすい設計です。厚みのある角柱脚に頼らずに強度と軽快さを両立させる点に、建築的な思考が明確に表れています。
材料は製造期ごとに変遷が見られます。初期は硬質で耐衝撃性に優れたアッシュ無垢を用い、精緻な指接ぎ(フィンガージョイント)で幅はぎされた天板により、木材の伸縮にも配慮した工業的職人技を示します。中期には温かみのあるチェリーが選択肢に加わり、後期にはパインが用いられる個体も見られます。同一の構造ロジックを保ったまま、時代の嗜好や供給事情に応じて素材を適応させた点は、デザインの普遍性とメーカーの柔軟な生産体制を物語ります。
三分割という発想は、単なる「伸長機構」の範疇を越え、独立ユニット同士の関係性を設計する“システム家具”のアプローチです。半円ユニットは単体でコンソールやサイドテーブルとしても成立し、場面に応じてテーブルが空間を編成する役割を担います。ヴィットは照明や収納など多領域に跨る実務経験を背景に、用途横断的な使い勝手と明快な幾何学を結び付け、過不足のない造形へと収斂させました。
保存・扱いにおいては、無垢材特有の含水率変化がジョイント部に与える影響を最小化するよう、相対湿度の安定管理が推奨されます。頻繁に分解・移動を行う場合は、脚と幕板の接合部や連結金具の緩みを定期点検し、面精度と水平を維持することが重要です。三点のユニットが揃い、連結機構が健全に機能してこそ、本作の多機能性と設計思想が十全に発揮されます。
本作は、1960年代のハイ・モダン期に培われた工業的精度と、1990年代以降のライフスタイルの多様化に応える可変性を、同一デザインの核で結び付けた希有な事例です。クリスチャン・ヴィットの建築的厳密さとソボーグ・モブラーの製造力が結実し、時代を横断して有効に機能し続ける“永続する機能主義”を体現しています。