FH4103 Heart Chair | ハートチェア


About

Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)
Year: 1952
Material: Solid oak or beech, molded plywood seat with teak
Size: W 52 × D 49 × H 73 × SH 44 cm


Story

FH4103「ハートチェア」は、日常の課題をエレガントに解くための設計的思考が、そのまま形になった一脚です。三本脚という選択は、石畳の床でも安定しやすいという機能要件から導かれ、ぐらつきを避けるための幾何学的原則を端的に体現しています。奇抜さではなく、使い手への配慮を起点にした必然の造形である点に、この椅子の核があります。

椅子単体ではなく、三本脚のダイニングテーブル(通称ハートテーブル)と「セット」で成立するよう設計されたことも、本作の重要な性格です。6脚が円形天板の下にぴたりと収まり、未使用時は一つの彫刻的な塊として空間を静めます。限られた面積のダイニングを効率よく、かつ視覚的に整える「生活のシステム」としての視点が、細部の寸法関係にまで貫かれています。

成形合板の座面は、ハート形の愛らしい輪郭と、身体をやさしく受け止める緩い皿面が両立しています。合板を用いることで、軽さ・強度・量産性を確保しつつ、人間工学的な三次曲面を精度よく反復可能にしました。一方で、背を形づくる無垢材の曲げは職人技の領域で、端部へ向けた繊細なテーパーは視覚的軽やかさと触感の心地よさを与えます。工業化とクラフトの適材適所の結合が、構造と表情の双方を豊かにしています。

スタッキング可能な構造は、家庭の来客対応から公共空間まで用途を広げました。脚の開き角、背板の厚みと反り、座面のエッジ処理など、重ねた際に干渉や傷を招かないための調整が精密に行われています。実用性が形を規定し、その形が美へと昇華する──本作はその循環を示す好例です。

1950年代のデンマーク・モダンが掲げた「素材への正直さ」「機能の徹底」「生産技術の更新」は、本作で明快に統合されています。三脚が与える安定、テーブルと組む省スペース性、成形合板と曲げ木の協働。これらは単なる特徴の羅列ではなく、使い手の生活を穏やかに整えるための連関として結びついています。FH4103は、名声の大小を超えて、デザインの本質──共感・機能・クラフツマンシップ──を最短距離で伝える一脚です。

 

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