About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)
Year: 1952
Material: Oak, Leather
Size: W 53 × D 43 × H 73 × SH 43 cm
Story
FH4104 ハートチェアは、1952年にハンス・J・ウェグナーがフリッツ・ハンセンのために設計した三本脚のダイニングチェアです。三角形を基調とする座面形状から「ハートチェア」と呼ばれ、同年のスタッキング仕様である FH4103 と並んで、省スペース性とコントラクト用途への適合を明確に志向しています。円形テーブルと組み合わせた際の着座効率が高く、限られた面積で席数を確保できる点が特長です。
三本脚構造は床面の不陸に左右されにくく、常に三点で安定します。ウェグナーは脚部をわずかにテーパーさせ、要所の断面を最適化することで、視覚的な軽さと必要強度の両立を図っています。背もたれは穏やかな曲率で背中を受け、トップレールの中央を薄く仕上げる処理によって、当たりの柔らかさと軽快な表情を与えています。
素材はフレームにオーク、座面にレザーが基調です。フリッツ・ハンセンが得意とする成形・接合技術により、背板や座面下の構造を薄く軽やかに保ちながら剛性を確保しています。スタッキング時の干渉を避けるクリアランス設計や、脚—座—背の結節部の精度など、量産工業と木工美の接点を丁寧に解いた設計配慮が随所に見られます。
歴史的には、FH4104 はウェグナーの木工的純度とフリッツ・ハンセンの工業生産技術が交差した過渡期の成果として位置づけられます。のちに同社は成形合板の極みによってセブンチェアなどへ展開しますが、FH4104 は無垢材の美質を活かしながら、機能主義・省スペース・積み重ねという要件を端正に解いた稀有な解答であり、1950年代デンマーク・モダニズムの技術的転換点を示す指標となっています。