Story
フリッツ・ヘニングセンは、20世紀前半のデンマークにおいて「家具職人の良心」と称された存在です。彼はデザイナーであると同時に、伝統的なキャビネットメーカーの最高峰を体現する職人でもありました。モダニズムが工業的な量産へと向かう時代においても、ヘニングセンは終始クラフトマンシップを基盤に据え、職人による手仕事の価値を守り抜きました。
彼はフランスのアンピール様式やロココ、17世紀英国様式などの古典的なフォルムを学び、それを現代的な感覚で再解釈しました。その作品は「優雅で気取らない家具」という理念のもとにデザインされ、柔らかな曲線や人間工学的な快適さを重視した点で、同時代の直線的な機能主義的デザインとは一線を画しています。
また、コーア・クリントとの交流とライバル関係も彼の成長に大きな影響を与えました。徒弟修業で身に付けた華麗な装飾性と、クリントから学んだ合理的分析を融合させたヘニングセンの家具は、ヒューマニスト的モダニズムの典型といえるものです。
彼の工房は1915年にコペンハーゲンに設立され、デザインから製作、販売までを一貫して自身の手で統括しました。この閉じた生産モデルは、拡大や量産を目的とせず、作品そのものの完全性を優先する哲学的選択でした。1955年に工房は閉鎖されましたが、彼が残した家具は今なおカール・ハンセン&サンなどによって復刻され、現代の生活空間に生き続けています。
About
Year 1889–1965
President Frits Henningsen
Designer Frits Henningsen
Place コペンハーゲン
History
1889:コペンハーゲンに生まれる
1906:I.P.モルクの工房に入門し、家具職人としての徒弟修業を開始
1911:家具職人資格を取得し、伝統的なキャビネットメイキングの技術を習得
1911–1915:ドイツ・フランス・イギリスを巡り、各地の歴史的家具を研究
1913:パリとロンドンの美術館でロココやアンピール様式の家具を詳細に記録
1915:コペンハーゲンに工房と店舗を設立、独立した職人として活動開始
1920:顧客からの注文に基づく高級家具製作を本格化
1924:コーア・クリントと交流を深め、デザイン哲学に影響を受ける
1927:コペンハーゲン家具職人ギルドの正会員となる
1930:ヘリテージチェア FH419 を発表、ギルド展に出品し高評価を得る
1935:ウィングバックチェアを発表、現代的解釈を加えた伝統様式として注目される
1938:ウィンザーチェア FH38 をデザイン、カール・ハンセン&サンで製造が始まる
1940:クーペソファなど家庭用の大型家具を発表、優雅な曲線美を強調
1942:直線的な機能主義デザインから距離を置き、曲線を重視する姿勢を明確にする
1945:第二次世界大戦後の復興期に再びギルド展に参加、クラフトの重要性を訴える
1950:コペンハーゲン家具展で「優雅で気取らない家具」という理念を提示
1952:ライティングデスクやキャビネット作品を発表、マホガニー材を多用
1954:シグネチャーチェア FH429 を発表、生涯最後のデザインとなる
1955:工房を閉鎖し、独立製作活動を終える
1960:晩年もギルド仲間との交流を続け、後進の育成に関わる
1965:死去、デンマーク家具史に大きな足跡を残す
2015:カール・ハンセン&サンがシグネチャーチェアを復刻し国際的に再評価
Furniture
・Heritage Chair FH419 | ヘリテージチェア
・Wingback Chair | ウィングバックチェア
・Windsor Chair FH38 | ウィンザーチェア
・Signature Chair FH429 | シグネチャーチェア
・High Back Coupe Sofa | クーペソファ
・Writing Desk | ライティングデスク
・Mahogany Cabinet | マホガニーキャビネット
・Oak Settee Sofa | オーク セティソファ
Imprint/Label
・オリジナル作品の多くにはメーカー刻印や署名がなく、来歴や構造分析が鑑定の鍵となる
・一部の作品には鉛筆で製造番号が記されている例がある
・復刻品にはカール・ハンセン&サンのメタルプレートが付与される
・ギルド展出品記録や当時のカタログが真正性を確認する重要資料となる