Story
ヘニング・ケアホルム(Henning Kjærnulf, 1911頃–1975)は、デンマーク・モダンの潮流においてしばしば「謎めいた存在」として語られてきました。その理由は、彼が特定のメーカーやブランドに帰属することなく、多数の工房や家具メーカーと協働し、フリーランスの「家具建築家」として活動したためです。結果として、彼の名前は一般的な消費者向けのマーケティングには現れにくく、作品そのものが評価の中心となりました。
彼のデザイン哲学は、デンマーク機能主義の合理性と、ブルータリズム的な素材への誠実さ、そしてバロック様式を思わせる装飾的な彫刻表現を独自に融合させた点にあります。特にオーク材へのこだわりは顕著で、厚みのある無垢材を用いた力強いフォルムが特徴です。その家具は、単なる道具を超えて、室内における建築的要素のように存在感を放ちます。
彼はまた、建築家としての一面も持ち合わせており、ニューロップ・モーベルファブリックの工場建築設計に関わった記録が残っています。家具と建築を横断する視点を持つことで、作品には空間性と構造への強い意識が反映されています。
同時代のハンス・J・ウェグナーやボーエ・モーエンセンと比較すると、ケアホルムの作品はより重厚で記念碑的です。ウェグナーが軽やかな流線形を、モーエンセンがシンプルで民主的な実用性を追求したのに対し、ケアホルムは「家具芸術」とも呼ぶべき彫刻的な存在感を家具に与えました。
現在、彼の作品はヴィンテージ市場において高く評価され、特に「レイザーブレード」チェアや彫刻的なサイドボードは、ユニークな美学と希少性からコレクターに強い人気を博しています。彼の遺産は、職人技と芸術的ビジョンを融合させたデンマーク・モダンのもう一つの側面を示しています。
About
Year: 1911頃–1975
Place: Odense(オーデンセ)
Manufacturer: Vejle Stole & Møbelfabrik(ヴァイレ・ストーレ・モーベルファブリック)、Nyrup Møbelfabrik(ニューロップ・モーベルファブリック)、EG Kvalitetsmobel(EG クヴァリテーツモーベル)、Bruno Hansen(ブルーノ・ハンセン)、Sorø Stolefabrik(ソロ・ストーレファブリック)、Korup Stolefabrik(コープ・ストーレファブリック)
History
1911: オーデンセ近郊のウベルードに家具職人の家に生まれる。出生名はヘンリー・ケアウルフ・ラスムッセン。
1930: オーデンセで家具職人見習い(snedkerlære)として活動開始。
1940: オーデンセの建築家E.クヌドセン事務所に勤務、家具建築家としての基礎を築く。
1950: フリーランスとして複数の家具メーカーと協働し、独立したデザイン活動を開始。
1955: 法的に「ヘンリー・ケアホルム」へ改名し、デザイン活動名として「ヘニング・ケアホルム」を用いる。
1960: Nyrup Møbelfabrikとの協業で「レイザーブレード」チェア(モデル66)を発表。
1960年代: EG KvalitetsmobelやBruno Hansenとの協業により多数の椅子とアームチェアを発表。
1962: Sorø Stolefabrikから円形の伸長式ダイニングテーブル(モデル62)を発表。
1965: Vejle Stole & Møbelfabrik製の大型ダイニングテーブルを発表、伸長機構の精度と力強い構造が評価される。
1970: 彫刻的な幾何学模様を施したサイドボードやキャビネットを製作、ブルータリズム的表現を完成させる。
1975: 死去。以降、彼の作品は国際的なオークションやコレクションにおいて高い評価を受け続ける。
Furniture
・Razorblade Chair Model 66 | レイザーブレードチェア
・Armchair Model 255
・Dining Chair Model 71
・Dining Chair Model 26
・Curule Armchair | クルールチェア
・Sideboard Low Credenza
・Dining Table Model 62
・Extension Dining Table