Story
イヴァン・シュレクターは、デンマーク・モダンの黄金期を支えた名工のひとりであり、その存在は単なる職人にとどまらず、家具製造の歴史を動かした重要なプロデューサーでもありました。彼の工房は、フィン・ユールやアルネ・ヴォッダーといった木工を得意とするデザイナー、あるいはファブリシャス&カストホルムやポール・ケアホルムといったスチールを扱うデザイナーなど、多様な思想を持つ人物たちの作品を実現する場として機能しました。
彼はもともとコペンハーゲンで活動を始め、ニールス・ヴォッダー工房の職人として経験を積んだのち、自らの工房を持ち、製造者として数多くの家具を生み出しました。フィン・ユールのチーフテンチェアのライセンスを引き継いだことは特筆すべき功績であり、デザインの完全性を守るために最高の職人との協業を継続した姿勢は、シュレクターがデザイン遺産の守護者であったことを示しています。
また、ケアホルムの作品における複雑な張り加工や、アナセンの前衛的なレザー家具の製造など、伝統から革新まで対応できる柔軟性を発揮しました。晩年にはギレライエに拠点を移し、修復工房を運営しながら自らが携わった家具の保存に尽力しました。こうした活動は、彼がデンマーク・モダンの「不可欠な手」として、創造から継承、そして保存に至る全過程を支え続けたことを物語っています。
About
Year:1918/1919-2018
President:Ivan Schlechter
Designer:Finn Juhl(フィン・ユール)、Poul Kjærholm(ポール・ケアホルム)、Arne Vodder(アルネ・ヴォッダー)、Mogens Koch(モーエンス・コッホ)、Fabricius & Kastholm(ファブリシャス&カストホルム)、Gunnar Aagaard Andersen(グナー・オーガード・アナセン)、Ole Gjerløv Knudsen(オーレ・ゲアロフ・クヌッセン)
Place:コペンハーゲン、ギレライエ
History
1918/1919:イヴァン・シュレクター誕生
1930年代後半:椅子張り職人として修行を開始
1940年代初頭:ニールス・ヴォッダー工房で専門職人として活動開始
1940年代後半:モーエンス・ラッセンの「エジプシャン・フォールディングスツール」の革シートを製作
1950年代初頭:フィン・ユールのチーフテンチェアに張り職人として関与
1953:アルネ・ヴォッダー AV-53 ソファを製造
1950年代中期:コペンハーゲン家具職人ギルド展で作品が出品される
1950年代後半:ポール・ケアホルムと協業を開始、PK22などの張りを担当
1960年:PK9チェアの張り構造を技術的に解決
1960年代初頭:E. コールド・クリステンセン社の依頼でPK80デイベッドを張る
1962:ファブリシャス&カストホルムのシミターチェア IS-63を製造
1963:ファブリシャス&カストホルムのオットマン、スツールを製造
1960年代中期:フィン・ユールがデンマーク大使館に選んだソファを製造
1960年代後半:モーエンス・コッホのウィングバックチェア MK50を製造
1970年代初頭:フィン・ユールよりチーフテンチェアのライセンスを継承
1970年代初頭:ベルナー・モーエンセンに木製フレーム製作を依頼し品質を継続
1970年代中期:ヨルゲン・ホイの棚プロトタイプを製作
1970年代後半:ヨハネス・フォーソムと協業
1980年代初頭:グナー・オーガード・アナセンのレザー家具を製造
1980年代中期:オーレ・ゲアロフ・クヌッセンとギレライエで修復工房を設立
1980年代後期:スヴェンセン家具と共同でサイドテーブルをデザイン・製造
1990年代:ギレライエ工房で修復活動を中心に継続
2000年代:過去に製作した作品の修復を自ら手掛ける
2010年代:デザイン遺産保存活動に専念
2018:死去、生誕100周年記念展がムンケルヒュース美術館で開催
Furniture
・Chieftain Chair
・AV-53 Sofa
・Scimitar Chair IS-63
・PK22 Easy Chair
・PK80 Daybed
・PK9 Dining Chair
・MK50 Wingback Chair
・Egyptian Folding Stool
・Side Table(Ole Gjerløv Knudsenと共同)
・Armchair and Bench(Gunnar Aagaard Andersen)