Story
アイヴァン・シュレクター(Ivan Schlechter, 1918–2018)は、20世紀デンマーク・モダンデザインにおける最も重要でありながら、しばしば過小評価されてきた存在です。彼は「デザイナー」というよりも、家具張り職人(Møbelpolstrer)であり、製作者、協働者、そして遺産の守護者でした。
シュレクターの仕事の核心は、デンマークの巨匠たちが描いた革新的なビジョンを、物理的に完璧な家具へと昇華させることにありました。フィン・ユールの「チーフテンチェア」における初期の張り加工、アルネ・ヴォッダーのAV-53シリーズの優雅な曲線、ファブリシャス&カストホルムの鋭いスチールとレザーの統合、ポール・ケアホルムのミニマルな構造の完成度――そのいずれもがシュレクターの熟練技術なしには実現し得なかったものです。
彼の工房「K. Ivan Schlechter Tapetserer Og Dekorator Copenhagen Denmark」は、黄金期デンマークデザインの創造と革新のハブとして機能しました。革やキャンバスといった素材に対する深い理解は、彼を単なる製作者ではなく「クラフトを通じてデザインを語る人物」へと位置づけています。
晩年はギレライエに工房を移し、過去に自身が製作した家具の修復に携わり続けました。これは、彼が「創造」「継続」「保存」という三幕を通して、デンマークデザインそのもののライフサイクルを体現したことを意味します。彼の生涯は、デンマークモダニズムを単なる巨匠たちの物語としてではなく、デザイナーと職人の協働によって生まれた総合的な運動として再評価する鍵となるのです。
About
Year: 1918–2018
Place: Copenhagen(コペンハーゲン)、Gilleleje(ギレライエ)
Manufacturer: Niels Vodder(ニールス・ヴォッダー)、House of Finn Juhl(ハウス・オブ・フィン・ユール)、Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)、E. Kold Christensen(イー・コールド・クリステンセン)
History
1918: コペンハーゲンに生まれる
1930年代後半: 家具張り職人として修業を開始
1940年代: コペンハーゲンの工房で経験を積み、家具張りの基礎を確立
1950年代: ニールス・ヴォッダー工房にて活動、フィン・ユールのチーフテンチェア製作に携わる
1950年代後半: 自身の工房「K. Ivan Schlechter Tapetserer Og Dekorator Copenhagen Denmark」を設立
1960年代: アルネ・ヴォッダーのAV-53シリーズやソファ類を製作
1962: ファブリシャス&カストホルムとシミターチェア(IS-63)を製作
1960年代後半: ポール・ケアホルム作品における張り加工を担当(E. Kold Christensenを通じて)
1970年代初頭: ニールス・ヴォッダーからチーフテンチェアの製造ライセンスを継承
1970年代: PPモブラー所属のベルナー・モーエンセンにフレーム製作を依頼し、品質の連続性を保持
1970年代後半: モーエンス・コッホのファイアサイドチェア(MK50/51)の製作に関与
1980年代: グナー・オーガード・アナセンの前衛的なレザー作品を製作
1990年代: ギレライエに工房を移転し、修復作業を中心に活動
2000年代: フィン・ユール作品の修復と保存に注力
2010年代: ムンケルヒュースにて100歳の誕生日を祝う展覧会が開催される
2018: 99歳で死去、生涯をクラフトに捧げる
Furniture
・Chieftain Chair | チーフテンチェア
・AV-53 Sofa and Easy Chair | AV-53 ソファ&イージーチェア
・Scimitar Chair IS-63 | シミターチェア
・PK22 Chair
・PK80 Daybed
・Fireside Chair MK50/51 | ファイアサイドチェア
・Copenhagen Chair | コペンハーゲンチェア
・Ottoman and Daybed | オットマン、デイベッド