About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: Johannes Hansen(ヨハネス・ハンセン)
Year: 1970
Material: Chrome-plated steel, Leather, Hardwood frame, Foam
Size: W149-150 × D75-77 × H60-71 cm
Story
JH802ソファは、ハンス・J・ウェグナーが1970年頃にデザインし、ヨハネス・ハンセン工房によって製作された二人掛けソファです。木工の巨匠として知られるウェグナーが、クロムめっきスチールとレザーという工業的素材に挑んだ数少ない作品であり、彼のデザイン哲学の普遍性を示す重要な事例といえます。
このソファは「自立型」として設計され、あらゆる角度から鑑賞に耐える造形美を持っています。直線的で幾何学的なスチールフレームが視覚的な軽快さを生み出し、その上に配置されたレザークッションが快適性を担保しています。外骨格のようなフレームと柔らかな座面の対比は、硬質な工業的美と居住空間における安楽性を融合させています。
素材にはクロムめっきスチールが採用され、接合には精密な金属加工が用いられました。クッションは内部に硬木フレームを備え、高密度フォームとストラップによって支持されています。ここではウェグナーが木や籐(ラタン)、成形合板といった有機的素材を一切排し、スチールとレザーの純粋性を追求した点が特徴です。
JH802は、同時代に活躍したポール・ケアホルムが展開したスチール主体のデザイン潮流との対話でもあり、さらに同年に発表されたCH100シリーズと並んで、ウェグナーが素材の制約を超えてデザインの原則を実証した作品です。彼の言葉にある「絶え間ない純化と簡素化のプロセス」は、ここで新たな形で結実しています。
ヨハネス・ハンセン工房との協業は、木製家具で数々の名作を生んできましたが、JH802はその関係が金属加工にも拡張された例といえます。1970年代初頭という時代背景を反映しつつ、ウェグナーとハンセン双方の柔軟性と革新性を物語る一脚であり、後継工房による再生産が行われなかったことから、オリジナルの存在は特に貴重な意味を持っています。