Story
ヨルゲン・ヘンリック・モラー(Jørgen Henrik Møller, 1930–2011)は、20世紀後半のデンマークデザインを語る上で欠かせない存在です。彼は、建築、工業デザイン、そして家具デザインという三つの領域を横断し、職人技術と産業的合理性の融合を試みた数少ないデンマーク人デザイナーでした。
彼の父であるニールス・オットー・モラー(Niels Otto Møller)が築いた工房〈J.L. Møllers Møbelfabrik〉を継承しつつ、工芸的倫理と機能主義を統合する新たな時代のデザイン言語を確立しました。ヨルゲン・モラーは、アーネ・ヤコブセンのスタジオに在籍した経験を持ち、その厳密な機能主義を自身の建築・プロダクト設計に応用しました。彼の作品群は、造形的な簡素さと技術的な完成度の両立を追求したものです。
また、ジョージ・ジェンセン(Georg Jensen)社との協働により、デンマークデザインを日常の中へと普及させました。特に1987年に孫とともにデザインした「エレファント・ボトルオープナー」は、世界的に知られるアイコン的作品です。このプロダクトは、単なる日用品を超えた「機能美の彫刻」として評価され、デンマークモダニズムの精神を小さなスケールで体現しています。
彼の哲学の中心には、「機能が形態に先立つ」という原則と、「簡素化の芸術(the art of simplification)」という理念がありました。装飾を排除し、構造そのものに美しさを見出すこの思想は、家具、日用品、建築のすべてに共通して貫かれています。
経営者としても、モラーはJ.L.モラー社を国際的なブランドへと導き、日本や北米市場への展開を成功させました。彼の死後も、そのデザイン哲学は次世代に受け継がれ、娘キルステン・モラーの手によって今も同社の理念として息づいています。
About
Year: 1930–2011
Place: Aarhus(オーフス)
Manufacturer: J.L. Møller Møbelfabrik(J.L. モラー)
History
1953:建設職人の徒弟課程を修了、銀メダルを獲得
1961:アーネ・ヤコブセン事務所に入所、建築・デザイン実務を学ぶ
1964:フレデンスボー郊外に自邸を設計・建設
1967:独立し、建築事務所を開設
1967–1969:エリク・ヘアロウ教授と協働し、デザイン理論を深化
1974:J.L.モラー社向けにModel 401・402・404をデザイン
1986:デンマーク国家芸術基金賞を受賞
1987:「エレファント・ボトルオープナー」を孫と共にデザイン(Georg Jensen社)
1994:J.L.モラー社の経営を引き継ぎ、米国より国際展開を推進
1995:フランクフルト・デザインプラス賞を受賞
2011:死去。J.L.モラー社の第三世代に継承される
Furniture
・Model 401 | アームチェア
・Model 402 | ダイニングチェア
・Model 404 | スタッキングチェア
・Taburet M Stacking Stool | スタッキングスツール
・Posterhanger | フレームハンガー
・Complet Kitchen Set | キッチンウェア
・Elephant Bottle Opener | ボトルオープナー
・354 Watch Series | 腕時計
・Oil Lamp for Israel Museum | オイルランプ