King of Diamonds Chair | キング・オブ・ダイヤモンズ・チェア


About

Designer: Børge Mogensen(ボーエ・モーエンセン)
Manufacturer: Søborg Møbler(ソボー・モブラー)
Year: 1944
Material: Mahogany, Leather
Size: W58 × D58 × H78 × SH44 cm


Story

ボーエ・モーエンセンが1944年にデザインした「キング・オブ・ダイヤモンズ・チェア」は、戦後デンマーク・モダニズムの黎明期における伝統的キャビネットメイキングの最高到達点を示す作品です。この椅子は、彼がデンマーク王立美術アカデミーを卒業し、カール・クリントの教えを受けた直後の時期にあたります。モーエンセンは、無垢材の構造美と高精度の指物技術を融合し、工業化以前のデンマーク家具製作の純粋な職人芸を体現しました。

「キング・オブ・ダイヤモンズ」という名称は、部材が幾何学的に交差する軽快なフレーム構造が、まるでトランプのダイヤのマークのように見えることから付けられた通称です。視覚的に緊張感のあるプロポーションと、緻密なジョイントによって実現された軽やかな印象は、単なる装飾ではなく構造そのものの美学を示しています。モーエンセンはこの作品を通じて、後の「ソボー・チェア」や「J39シェーカーチェア」へと続く“構造の誠実さ”という理念を確立しました。

フレームはマホガニー無垢材による完全木工構造で、ホゾ接ぎやダボ接ぎを駆使して高い剛性を保ちながら、視覚的には極限まで細い部材構成を実現しています。座面はレザー張りで、木部との対比がエレガントな印象を与えます。全体の寸法はW58 × D58 × H78 × SH44 cmで、ゆとりのある座面と軽快な脚部のバランスが見事に調和しています。

この椅子が制作されたソボー・モブラーは、当時コペンハーゲン郊外で高品質なキャビネット製作を行っていた工房であり、モーエンセンにとって理想的な制作環境を提供していました。彼はこの協業を通じて、職人技術の伝統を尊重しながらも、将来の工業化に適応するための設計的基盤を築いたのです。

1950年代には、同じソボー・モブラーから発表された「ソボー・チェア」(Model 155)によって、モーエンセンは合板成形技術を導入し、無垢材の構造と工業的生産の融合を実現します。「キング・オブ・ダイヤモンズ・チェア」は、その前段階における純粋な手工芸の象徴であり、後のデンマーク・モダン家具の設計思想を方向づけた重要な基礎作品といえます。


About

Designer: <a href=”https://denmark-design.com/borge-mogensen/”>Børge Mogensen(ボーエ・モーエンセン)</a>
Manufacturer: <a href=”https://denmark-design.com/soborg-mobler/”>Søborg Møbler(ソボー・モブラー)</a>
Year: 1950
Material: Oak, Plywood, Leather or Fabric
Size: W49 × D49 × H80 × SH46 cm


Story

「ソボー・チェア」Model 155は、モーエンセンが戦後の工業化に適応しつつ、自身の無垢材主義を再構築した転換点となる作品です。合板成形(プライウッドシェル)の技術を導入し、背もたれと座面に緩やかな三次元曲面を与えることで、長時間の着座における快適性を高めました。この薄板成形の採用は、チャールズ&レイ・イームズらの国際的潮流に呼応しつつも、モーエンセン独自の人間工学的機能主義を貫いた結果です。

脚部やフレームにはオーク無垢材が使用され、伝統的な堅牢さを保持しながら、座面・背面にはベニヤの一体成形シェルを用いることで生産効率を高めました。張り込み仕様では、レザーまたはファブリックのバリエーションが提供され、住宅から公共施設まで幅広く用いられています。構造的には金属ファスナーや接着によるハイブリッド接合を採用し、当時の量産体制に対応する工業的設計の模範を示しました。

モーエンセンが目指したのは、手仕事の価値を損なわずに、より多くの人々に良質な家具を届けることでした。この理念はFDBモブラー時代から一貫しており、ソボー・チェアにおいてはその実現手段として工業技術が選ばれたのです。無垢材と薄板成形という異なる技術の融合は、まさに「クラフトとインダストリーの架け橋」としてのデンマーク・デザインの本質を体現しています。

1950年代後半には、この構造原理がフレデリシア社に継承され、「Model 3236」として現在も製造が続けられています。ソボー・チェアは、ボーエ・モーエンセンの設計哲学の成熟を示すだけでなく、デンマーク家具産業が伝統工芸から近代生産へと移行した象徴的な成果でもあります。

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