About
Designer: Kaare Klint(コーア・クリント)
Manufacturer: Rud. Rasmussen(ルド・ラスムッセン) / Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)
Year: 1930
Material: Oak / Walnut / Leather
Size: W132 × D76 × H90 × SH45 cm
Story
コーレ・クリントが1930年にデザインした「KK41180 ハイサイド・ソファ」は、デンマーク近代家具史の礎を築いた作品のひとつです。首相公邸のために設計されたこのソファは、単なる座具としてではなく、社会的象徴をも帯びた機能主義の実践例として位置づけられます。クリントは家具の形態や装飾よりも、人間の身体寸法に基づく合理的な機能性を重視し、デザインを科学的根拠に基づく行為へと昇華させました。
「ハイサイド」と呼ばれる垂直に立ち上がった側板は、このモデルの特徴的な要素です。これは単なる造形的意匠ではなく、立ち上がりを補助するための構造的工夫であり、同時に空間を緩やかに区切る役割を果たします。特に公邸のようなフォーマルな環境においては、会話のための半個室的な領域を形成し、音響的な遮断効果をも生み出す構造として機能しました。
座面下にはクロスバーが設けられ、着座時の安定性を高めながらも、脚まわりの空間を広く確保しています。この設計は、座る・立つという動作を自然に導く人間工学的配慮の表れです。フレームは8本脚の分割構造を採用し、個々の着座者が快適に過ごせるよう緻密に設計されています。これらの構造的特徴はすべて、クリントの厳格な人体測定に基づく合理的設計思想に直結しています。
素材には高密度のオークやウォルナットなどの無垢材が用いられ、伝統的なほぞ継ぎやフィンガージョイントといった精緻な接合技術によって組み上げられています。張り地にはレザーが選ばれ、クリントが好んだ緊密な張り仕上げが施されています。これにより、構造的強度とフォーマルな印象を両立しています。
製造を担当したルド・ラスムッセン工房は、デンマークで最も尊敬された指物師のひとつとして知られ、クリントの機能主義を職人技によって具現化しました。1937年のコペンハーゲン指物師ギルド展ではこの作品が展示され、「近代家具の典範」として高い評価を受けています。2011年にカール・ハンセン&サンがルド・ラスムッセンを買収したのちも、このモデルは当初の設計仕様を維持したまま継続生産されています。
今日でもKK41180は、クリントが確立したデンマーク機能主義の純粋な象徴として評価され続けています。そのデザインは、フォルムの美しさ以上に「人間のための正確な構造」を追求した結果であり、時代を超えてなお新鮮な合理性を放ち続けています。