About
Designer: Kaare Klint(コーア・クリント)
Manufacturer: Rud. Rasmussen(ルド・ラスムッセン) / Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)
Year: 1933
Material: Oak, Walnut, Leather
Size: W92 × D70 × H79 × SH37 cm
Story
KK48650 Addition Sofaは、1933年にコーア・クリントによって設計された、デンマーク機能主義の象徴的な作品です。幾何学的な比例と人体寸法に基づいた設計、そして無駄のない構造美によって構成され、クリントが確立した「数学的機能主義」の精髄を体現しています。本作は、彼が王立デンマーク芸術アカデミーで提唱した教育理念、すなわち「家具は人間の身体に適合するべきである」という思想の実践例としても知られています。
制作を担ったのは、コペンハーゲンの名門工房ルド・ラスムッセンであり、彼らの卓越したキャビネット技術が、クリントの理論を現実の形に結実させました。ラスムッセンの職人たちは、精密なホゾ組み構造と革張りの張力調整技術を駆使し、視覚的な軽快さと耐久性を両立させています。その後、2011年以降はカール・ハンセン&サンが製造を継承し、クリントのデザイン理念を忠実に再現しつつ現代の品質基準に合わせて製作を続けています。
Addition Sofaの最大の特徴は、モジュラーシステムとして設計された点にあります。背もたれの有無により構成を自由に変えられるユニットソファであり、単体でも連結でも美しく機能するよう設計されています。幅92cmのユニット寸法は、空間構成に柔軟性を与えると同時に、幾何学的秩序を崩さない計算の結果です。この体系的な設計手法は、後のデンマークデザインにおける「合理的家具設計」の基盤となりました。
張りには上質なレザーが用いられ、特徴的な菱形パネルとボタン留めによって、見た目の美しさだけでなく機能的な耐久性も高められています。この構造は、座面の荷重を分散し、革の伸びを防ぐための実用的な工夫であり、1935年にはコペンハーゲン馬具製造・内装職人ギルドの記念コンペティションで受賞を果たしています。装飾を排し、素材と構造に美を見出すクリントの哲学が、最も純粋な形で具現化されたデザインといえます。
今日に至るまで、KK48650 Addition Sofaはそのモダンでありながら普遍的な美しさを保ち続けています。学問的な精密さと職人的な温もりを併せ持つこの作品は、デンマーク家具の設計思想の礎を築いたコーア・クリントの精神を現代に伝える、生きた教材のような存在です。