MK99200 Folding Chair | フォールディングチェア


About

Designer: Mogens Koch(モーエンス・コッホ)
Manufacturer: Rud. Rasmussen(ルド・ラスムッセン)
Year: 1932
Material: Beech, Brass, Canvas or Leather
Size: W 50 × D 90 × H 90 × SH 46 cm


Story

MK99200 Folding Chairは、モーエンス・コッホが1932年に構想し、1960年にルド・ラスムッセンによって製品化された折りたたみ椅子です。約30年にわたる開発期間は、単なる製品化の遅延ではなく、デザイン理論と構造技術の融合に向けた執念の成果を物語っています。

コッホはカアレ・クリントの直弟子として、徹底した機能主義の哲学を受け継ぎました。MK99200においても、装飾を排した純粋な構造美、そして人間工学的寸法の精密な適用が見られます。折りたたみ椅子という形式を、単なる携帯性の道具としてではなく、「理想的な構造の探求」として再定義した点に、本作の革新性があります。

構造上の核心となるのは、座面と脚部を連結する真鍮リングの機構です。フレームに通された真鍮リングが開閉動作を担い、複雑な金属ヒンジを排除しながら高い耐久性を確保しています。この仕組みは、可動性と剛性の両立を可能にした画期的な設計であり、当時の木工技術を超えるものでした。

素材選定も機能主義的合理性に基づいています。高密度で安定したビーチ材を主構造に用い、金属部には経年変化による美しさを備える真鍮を採用。座面のキャンバスやレザーは、軽量化と折り畳み時の摩擦固定を両立させています。異素材の接合部には高精度な加工が施され、動的な要素と静的な強度が完璧に調和しています。

製造を担ったルド・ラスムッセンは、1869年創業のデンマーク最古の家具工房の一つであり、クリントやコッホら理論派デザイナーの構想を実現する唯一無二の技術力を有していました。MK99200はその職人技の集大成であり、2011年にカール・ハンセン&サンに継承された後も、その名を冠して生産が続けられています。

この椅子は、デンマークデザインの「黄金律」と呼ぶにふさわしい存在です。理想の機能を追求しながら、構造・素材・職人技が一点に収束したその姿は、現代の工業製品が忘れがちな「正直な構造」と「素材への敬意」を体現しています。MK99200は、時代を超えてなお、デザイン教育と工芸の価値を語り続ける生きた教材といえるでしょう。

 

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