About
Designer: Peter Hvidt & Orla Mølgaard-Nielsen(ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード=ニールセン)
Manufacturer: Søborg Møbelfabrik(ソボー・モブラー)
Year: 1955
Material: Teak, Papercord
Size: W49 × D50 × H76 × SH45 cm
Story
1950年代にデザインされた「Model 316 チェア」は、ピーター・ヴィットとオルラ・モルガード=ニールセンによる共同設計によって誕生しました。製造はコペンハーゲンの老舗工房ソボー・モブラーが手掛け、両者の緊密な協働によって、デンマーク・モダニズムの精髄を体現した椅子として知られています。
このモデルは、Hvidt & Mølgaardが得意とした工業化とクラフトマンシップの融合を示す作品です。積層合板技術(ラミネーション)やノックダウン構造など、彼らが先駆けて導入した技術思想を背景に、Model 316は無垢チーク材の堅牢なフレームと、手織りのペーパーコード座面を組み合わせることで、温かみと機能性を同時に実現しています。
背もたれは滑らかな半円形を描き、蒸気曲げや成形合板による精密な加工によって、座る人の背に自然に沿うよう設計されています。この湾曲部は、Hvidt & Mølgaardの技術的成熟を象徴する要素であり、AXチェアに代表される彼らの積層技術の延長線上に位置づけられます。
一見シンプルなフレーム構造の内部には、緻密な強度計算と伝統的な木工技法が潜んでいます。脚部には対角線上のストレッチャーが配され、ねじれ応力を抑えるための構造的安定性が確保されています。これにより軽量でありながら剛性を損なわない、理想的なダイニングチェアとしての完成度を獲得しました。
Hvidt & MølgaardはこのModel 316を中心に、アーム付きのModel 317、ダイニングテーブルのModel 311などを連携させ、統一されたコレクションを形成しました。これらは1950年代にヨーロッパや北米で輸出され、ソボー・モブラーの国際的評価を高める一因となりました。
現在、この椅子はデンマークの現代ブランド「&Tradition」により「Drawn Chair HM3」として復刻され、無垢オーク材やウォールナット材にペーパーコードを組み合わせた仕様で再生産されています。そのシンプルで普遍的な造形は、半世紀以上を経た今も変わらぬ価値を放ち、デンマーク・モダニズムの理念を現代に伝え続けています。