About
Designer: Kaare Klint(コーア・クリント)
Manufacturer: Rud. Rasmussen(ルド・ラスムッセン)
Year: 1928
Material: Oak / Mahogany, Leather(Naugahyde)
Size: W 53 × D 52 × H 83 × SH 47 cm
Story
モデル3949「レッド・チェア」は、コーア・クリントがデザインし、ルド・ラスムッセン工房によって製造された代表的な作品です。クリントは装飾を排し、機能性と人体比例を徹底的に追求することで、家具デザインに科学的な根拠を導入しました。彼の設計哲学は、単なる造形美を超え、人間と家具の関係性を数値と理論で定義することにありました。
1920年代後半のデンマークでは、装飾を排除した合理的な家具が次第に求められるようになり、クリントはその潮流の中心にいました。モデル3949は、彼の代表作の一つとして、従来の椅子構造を再解釈しつつ、座り心地と安定性を両立したデザインとして誕生しました。
その原型は18世紀イギリスのジョージアン様式のチェアにあり、クリントはこの古典的フォルムを研究し、装飾を取り除いて構造の本質を浮き彫りにしました。椅子の脚部はまっすぐに立ち上がり、背もたれはごくわずかな傾斜をもって支える設計で、快適さと姿勢保持を両立しています。
素材にはオークまたはマホガニーの無垢材が使用され、座面と背もたれには赤いレザーまたはノーガハイドが張られています。この鮮やかな赤色が「レッド・チェア」の呼称の由来です。真鍮釘による張り固定は、構造的機能を果たすと同時に、装飾を排した中での意図的な視覚的アクセントとして機能しています。
製作を担ったルド・ラスムッセン工房は、デンマーク王室御用達の伝統を誇る名門であり、クリントの厳密な設計を具現化する唯一の存在でした。両者の協働は、デニッシュモダンの黎明期を象徴するものであり、のちにボーエ・モーエンセンやフィン・ユールらが継承する設計理論の礎となりました。
今日、モデル3949はデンマーク・デザインの「原典」として、美術館やコレクターの間で高い評価を得ています。その存在は、機能と美、伝統と理性を融合させたクリントの哲学を最も明快に示す作品といえるでしょう。