About
Designer: Arne Vodder(アルネ・ヴォッダー)
Manufacturer: Sibast Furniture(シバストファニチャー)
Year: 1960
Material: Solid Rosewood or Solid Teak / Upholstery: Leather or Fabric
Size: W × D × H × SH cm
Story
Model 422 Dining Chairは、デンマーク・モダンが国際的評価の最盛期を迎えた1960年頃に発表された作品です。工業化された機能主義と伝統的クラフトの融合という当時の潮流を、その軽やかなシルエットと堅牢な骨格によって明確に示しています。視覚的な量塊を抑えながら、椅子としての性能を落とさない——その設計思想は全体のプロポーションに一貫して表れています。
デザイナーのアルネ・ヴォッダーは、師であるフィン・ユールから「空間と調和する建築的視点」を継承しつつ、より構造志向で理性的なデザインへと展開しました。Model 422では、脚部を先端に向かって繊細にテーパーさせ、背面には垂直線と緩やかな曲線を組み合わせることで、彫刻的でありながらも過度に主張しない佇まいを実現しています。ダイニング空間における「見え方」の制御が巧みで、複数脚を並べた際にも軽やかなリズムと透過感が生まれます。
背もたれは、体幹を面として支えるために十分な高さを持ちながら、圧迫感を軽減するための細身の部材構成を採用しています。わずかな後傾と曲率は肩甲骨から腰部にかけて荷重を分散し、長時間の着座でも姿勢の保持力を維持します。座面は適度なクッション性を持つ張り込み仕様(ファブリックまたはレザー)で、エッジ部の柔らかなR処理と座面厚のバランスによって、接地感と可動性を両立しています。なお、同時代のデンマーク家具には籐(ラタン)を用いた例もありますが、Model 422に関しては張り込み座面が主流でした。
フレーム構造は、その細身の見た目に反して高い耐久性を備えています。脚部や背部の結合には精度の高いほぞ継ぎ(Mortise and Tenon)が用いられ、繰り返しの荷重にも耐えうる強度を確保しています。後脚から背へと連続的に伸びるラインは、木材の繊維方向を読み取った上で削り出されており、応力を分散させるための断面設計が施されています。この一体感のある造形は、精密な加工と丹念な仕上げを経て初めて成立するものであり、Sibast Furnitureの熟練した職人技を如実に示しています。
素材は当時のデンマーク家具輸出市場を象徴するソリッド・ローズウッド、または普遍性と耐久性に優れるチークが選ばれました。ローズウッドでは、深みのある色調と複雑な木目を活かすために薄い塗膜仕上げが施され、チークでは経年変化による蜂蜜色の風合いがフレームの曲線を際立たせます。これらの素材の選定と加工は、デザイナーと製造工房の緊密な対話の結果であり、自然素材の美しさを最大限に引き出すという北欧デザインの理念が貫かれています。
歴史的に見ても、Model 422はSibast FurnitureとArne Vodderの協業体制が最も成熟した時期の成果として位置づけられます。1950年代後半から1960年代にかけて、両者は「構造の信頼性」と「美的軽快さ」を共通のテーマとして追求しました。Model 422では、427などのラウンジチェアで培われた快適性をダイニングチェアに応用し、家庭空間やコントラクト空間の双方に対応できるバランスを実現しています。
また、Sibastの木工技術がこのデザインの完成度を支えています。特に背もたれと後脚の一体成形、そしてスピンドル構造による視覚的な軽快さは、工房の熟練職人による精密な加工があって初めて成立しました。Sibast Furnitureが誇る「緻密な接合部処理」と「曲面の滑らかな仕上げ」は、ヴォッダーの意図した軽やかさと建築的明快さを具現化しています。
今日においても、Model 422はその造形的完成度と素材の質感によって高い評価を受け続けています。高背ながらも圧迫感のないスピンドルバックのデザインは、光と影を巧みに取り入れ、空間に溶け込む存在感を保っています。ヴィンテージ市場ではローズウッド仕様の個体が特に希少で、チーク材のモデルとともにデンマーク家具黄金期を象徴する作品として世界的にコレクターズアイテムとなっています。
総じて、Model 422 Dining Chairは、アルネ・ヴォッダーの建築的思考とSibast Furnitureの職人技が結晶した傑作です。構造の合理性、曲線の柔らかさ、そして素材の深みが有機的に結びつき、時代を超えて普遍的な魅力を放ち続けています。