About
Designer: Børge Mogensen(ボーエ・モーエンセン)
Manufacturer: Søborg Møbler(ソボー・モブラー)
Year: 1949
Material: Oak, Beech, Teak veneer, Steel
Size: W50 × D48 × H77 × SH45 cm
Story
Model 155 チェアは、ボーエ・モーエンセンがデンマークの工房ソボー・モブラーのために1949年にデザインした作品です。この椅子は、デンマークモダンデザインにおける「民主的デザイン(Democratic Design)」という理念を最も純粋な形で体現しています。すなわち、優れたデザインと高い品質を持つ家具を、社会の限られた層ではなく、広く人々に届けるという思想です。
モーエンセンは、日常生活の中で機能的かつ誠実な家具を生み出すことを使命とし、機能主義を人間中心的な観点から再定義しました。Model 155 チェアの設計においてもその哲学は明確に反映されており、快適な座り心地を追求しながらも、構造的な堅牢さと視覚的な軽やかさを両立しています。
この椅子の特徴は、成形合板による背と座のシェル構造と、無垢材またはスチールによる脚部の組み合わせにあります。モーエンセンは、1948年にハンス・J・ウェグナーとともに参加したニューヨーク近代美術館(MoMA)の「低コスト家具コンペティション」で得た経験を通じて、プライウッドという素材の可能性に着目しました。その成果が、このModel 155に見事に結実しています。
背と座は緩やかに湾曲しており、使用者の体を包み込むように設計されています。これはモーエンセンが生涯を通じて追求した「人間工学的快適性」の象徴的な実例です。また、木部とスチール脚の異素材の組み合わせは、デンマーク家具が伝統的な木工技術から工業的モダニズムへと進化する過程を示しています。
さらに、Model 155 はモーエンセンの代表作「J39 チェア」と「スパニッシュチェア」をつなぐ過渡的な作品と位置づけられます。J39が伝統的職人技の極致を示す無垢材構造であったのに対し、Model 155は新しい技術である成形合板を取り入れ、量産と人間的快適性を両立させました。その後のデンマーク家具における標準的構造を提示した点でも、極めて重要なデザイン史的意義を持っています。
ソボー・モブラーの高い製造精度とキャビネットメーカーとしての伝統は、モーエンセンの設計意図を忠実に具現化しました。同社は当時、ピーター・ヴィッツやモーエンス・ラッセンら著名デザイナーとも協業し、職人技と工業化の接点を支える重要な役割を果たしていました。Model 155 はその象徴的成果のひとつとして、現在でも静かな美と誠実な造形で高く評価されています。