About
Designer: Børge Mogensen(ボーエ・モーエンセン)
Manufacturer: Søborg Møbler(ソボーグ・モブラー)
Year: 1950s
Material: Teak, Beech, Birch
Size: W150 × D46 × H87 cm
Story
1950年代半ば、デンマーク・モダンの黄金期に誕生したボーエ・モーエンセンのモデル160サイドボードは、機能主義の理念を最も明快に体現した収納家具のひとつです。チーク材の外装とブナ材の脚部を組み合わせ、堅牢な構造と温かみのある美観を両立させています。
モーエンセンは、師であるコーア・クリントのもとで学んだ人体寸法学と分析的設計手法を基盤に、家具を「生活のための道具」として再定義しました。モデル160では、配膳台としても利用できる高さ約87cmという寸法設定により、家庭環境との親和性を高めています。扉には開閉半径を必要としない引き戸機構を採用し、限られた空間でも効率的に使用できるよう配慮されています。
内部は左右非対称に構成され、一方には高さ調整が可能な棚板を、もう一方には引き出しユニットを備えています。この柔軟なモジュール構成は、家庭ごとの収納ニーズに対応するために設計されました。引き出しの構造には伝統的な蟻継ぎが用いられ、長期間の使用にも耐える強度を確保しています。
ソボーグ・モブラーは、19世紀末に創業したキャビネットメーカーとしての伝統をもち、1940〜50年代にはデンマークの家具職人ギルド展において高く評価されていました。モーエンセンとの協働は、1944年の「チャイニーズ・キャビネット」に始まり、その後も多くのケースグッズを通じて深化していきます。彼らの協働によって実現したモデル160は、手仕事と工業化の理想的融合を示す成果でした。
チーク材の突板を用いた外装は、美観と耐久性の両面で優れており、現在でも多くのヴィンテージ個体が高い機能性を保っています。脚部のブナ材との素材コントラストは、温かみのある北欧的なバランスを生み出し、構造美を際立たせています。これらの意図的な選択は、モーエンセンが提唱した「正直で、機能的で、民主的な家具」という理念を具現化したものでした。
今日、モデル160は単なる収納家具ではなく、デンマーク機能主義の規範として再評価されています。そのデザインは、質の高い製造、素材の誠実な扱い、そして生活者のための実用性という理念がいかに調和し得るかを静かに語り続けています。