About
Designer: Børge Mogensen(ボーエ・モーエンセン)
Manufacturer: Søborg Møbelfabrik(ソボー・モブラー) / Fredericia(フレデリシア)
Year: 1950
Material: Oak, Beech, Teak, Walnut, Molded Plywood, Steel
Size: W52 × D48 × H79 × SH46 cm
Story
Søborg Chair(セボーチェア)は、デンマークの家具デザイナー、ボーエ・モーエンセンが1950年にデザインしたダイニングチェアです。この椅子は、無垢材のクラフトマンシップと成形合板による工業化技術を融合させた作品であり、戦後のデンマークにおける「デモクラティック・デザイン(民主的デザイン)」思想を体現した代表作として知られています。
モーエンセンは、恩師コーア・クリントから学んだ厳格な機能分析と人間中心の設計を基盤に据えながらも、より多くの人々のための家具づくりを目指しました。Søborg Chairはその理念の結晶であり、日常生活に寄り添う「普遍的な美」と「機能性」を兼ね備えたデザインとして誕生しました。
この椅子が生まれる契機となったのは、1948年にニューヨーク近代美術館(MoMA)が開催した「ローコスト家具デザイン国際コンペティション」です。モーエンセンはハンス・J・ウェグナーと共に参加し、成形合板を用いた実験を通じて、素材と生産性の新たなバランスを追求しました。そこで得た知見が、1950年発表のSøborg Chairの基本構造へと結実しています。
Søborg Chairの特徴は、堅牢な無垢材フレームと軽快な成形合板シェルの明確な対比にあります。背と座が緩やかにカーブし、人間工学的な快適性を提供するとともに、構造そのものが視覚的にも読みやすい「正直なデザイン」となっています。座面と背もたれはネジによって固定され、交換が容易であることから、メンテナンスや修理を前提とした持続可能な構造を実現しています。
製造当初はコペンハーゲン郊外のSøborg Møbelfabrikによって手掛けられ、後にモーエンセンが専属契約を結んだFredericia社に引き継がれました。2014年にはモーエンセン生誕100周年を記念してFredericia社が再発売し、現代でも生き続けるクラシックデザインとして評価されています。
この椅子は、アルネ・ヤコブセンの「セブンチェア」やハンス・J・ウェグナーの「シェルチェア」と並び、デンマークモダンにおける三大シェルチェアのひとつと見なされています。ただし、モーエンセンの椅子は他の作品とは異なり、部品の組み合わせと構造の明快さに美を見出した点で特異な存在です。Søborg Chairは、クラフトと工業、理性と詩情が交差するデンマークデザインの象徴として、今なお多くの空間で用いられています。