About
Designer: Arne Jacobsen(アルネ・ヤコブセン)
Manufacturer: Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)
Year: 1966
Material: Leather, Steel, Aluminium, Wood, Foam
Size: W101 × D94 × H115 × SH40 cm
Story
オクセンチェア(Oksen)は、アルネ・ヤコブセンが1966年に発表した最も力強く、挑戦的な作品の一つです。彼の代表作であるエッグチェアやスワンチェアが有機的で柔らかなフォルムを特徴としていたのに対し、オクセンチェアは角張った直線と多面的な平面で構成され、空間に強烈な存在感を放ちます。その名が示す通り「雄牛」のように威厳と迫力を持ち、ヤコブセンのキャリアにおける異端的なデザインとして位置づけられています。
デザインの背景には、アメリカのラウンジチェアから得た影響があります。ゆったりとしたプロポーションと快適性を取り入れつつ、量産家具に見られる冗長な機構や過剰な装飾を排し、デンマーク的なミニマリズムと彫刻的な感性を融合しました。その結果、快適さと建築的な厳格さを両立した、全く新しいタイプのチェアが誕生しました。
構造面では、木材とスチールを組み合わせた強固なフレームにより、アームやヘッドレストの片持ち的なフォルムを実現しています。クッションには成形ポリウレタンフォームを採用し、座面にはフェザーやダウンを混合した複合素材を充填することで、経年変化とともに柔らかさと風合いが増すよう設計されています。張地はすべて革で仕上げられ、背面は手縫いによる仕上げが施されており、フリッツ・ハンセンとのクラフトマンシップの伝統を色濃く継承しています。
この椅子が登場した1960年代は、ポップアートやプラスチック家具が台頭する時代でした。その中でオクセンチェアは、時流とは一線を画す厳格で重厚な造形を提示しました。大衆文化に迎合するのではなく、自らの過去の成功からの脱却を試みたヤコブセンの意志を体現しており、彼の芸術的な自己再定義の声明といえる作品です。
1960年代当時は商業的成功に恵まれず、短期間で生産が終了しましたが、その希少性からコレクターズアイテムとなり、2017年にフリッツ・ハンセンによって再生産が開始されました。再販にあたり、当時の図面が残されていなかったため、美術館収蔵品を徹底的に研究し、現代の人間工学に合わせた微調整を加えることで復刻が実現しました。この過程は、フリッツ・ハンセンが培ってきた継承力とクラフトの記憶を証明するものです。
今日、オクセンチェアはアルネ・ヤコブセンの作品群の中で異彩を放つ存在であり、デザインの革新性と歴史的意義を併せ持つモダンデザインの象徴として評価されています。