About
Designer: Ole Wanscher(オーレ・ヴァンシャール)
Manufacturer: A.J. Iversen(A.J. イヴェルセン)
Year: 1957
Material: Brazilian Rosewood, Leather
Size: W 63 × D 39 × H 36
Story
オーレ・ヴァンシャールが1957年にデザインした「エジプシャン・スツール」は、古代エジプトの折りたたみ式スツールに着想を得て誕生しました。彼が実際にエジプトを旅した際に目にした遺物が直接的なインスピレーションとなり、古典主義的な美意識とデンマーク・モダニズムの合理性を融合させた作品です。
X字型の脚部と吊り下げ式の座面という構造は、古代の王権を象徴する家具の形式を思わせながら、細くしなやかなラインで現代的に再構築されています。力強さと軽やかさを兼ね備えたフォルムは、ヴァンシャールが一貫して追求した「文法的に明晰なデザイン」を体現しています。
製作を担ったのはデンマークを代表する名工房A.J. イヴェルセンです。彼らの比類なき職人技は、精密な接合部や木材表面の滑らかな仕上げに現れており、スツール全体に芸術的な完成度を与えています。復刻版が工業的な生産方法によって作られているのに対し、イヴェルセン工房で製作されたヴィンテージは、すべて手仕事による仕上げが行われており、素材の希少性と相まって特別な存在感を放っています。
素材にはブラジリアン・ローズウッドが用いられ、濃密で深みのある木目がスツールに高貴な印象を与えています。革の座面はサドルレザーの伝統を引き継ぎ、使い込まれることで美しい経年変化を示します。これらの要素が組み合わさり、機能的なスツールでありながら、彫刻的なオブジェとしての性格も備えています。
この作品は、ヴァンシャールが掲げた「すべての人のためのデザイン」と「高級職人との協働」という二面性を象徴する一脚です。日常的に使える家具でありながら、同時に文化的・歴史的な物語を背負い、コレクターズアイテムとしての価値を確立しています。