About
Designer: Poul Kjærholm(ポール・ケアホルム)
Manufacturer: E. Kold Christensen(E. コル・クリステンセン), PP Møbler(PP モブラー), Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)
Year: 1979
Material: Ash, Cane
Size: W575 × D477 × H716 × SH450 mm
Story
PK15は、ポール・ケアホルムの晩年における思索と技術的探求が結晶化した作品です。それまでスチールを中心に構造の純度を追求してきた彼が、再び木という素材に向き合った点において、この椅子は特異な位置を占めています。単なる素材の変更ではなく、これまで培ってきた建築的な思考を、異なる物質に適用した試みとして理解する必要があります。
この椅子の製造は、その技術的難易度の高さゆえに複数の工房を経てきました。初期にはE. コル・クリステンセンの系譜に連なる生産背景の中で構想が引き継がれ、その後PPモブラーによって製品化が試みられます。そして2024年以降はフリッツ・ハンセンによって正式にコレクションへと組み込まれ、現代の技術水準のもとで安定した生産が行われています。この変遷は、単なる製造元の移行ではなく、ケアホルムの設計思想を忠実に再現するための技術的蓄積の歴史でもあります。
最大の特徴は、蒸気曲げによって形成されたフレーム構造にあります。背からアーム、そして前脚へと連続する一本のラインは、一見すると極めて自然で穏やかな曲線ですが、その実現には高度な木工技術が不可欠です。特に直線と曲線が切り替わる箇所には強い応力がかかるため、素材の内部構造を踏まえた精密な制御が求められます。この構造は、ケアホルムがスチールで実現してきた「最小限の構成による最大の強度」という思想を、木材で再解釈したものといえます。
座面には籐(ラタン)が用いられており、フレームの緊張感を和らげると同時に、視覚的な軽やかさを生み出しています。編み込まれた構造は適切な通気性と保持力を両立しており、機能と意匠が高い次元で統合されています。ケアホルムの作品において重要なのは、異素材の組み合わせが装飾としてではなく、構造的必然として成立している点です。PK15においても、木と籐の関係は明確な役割分担のもとに成立しています。
造形としてのPK15は、極めて静謐です。無駄な要素は排除され、構造そのものがそのまま形として現れています。そこには装飾的な意図は存在せず、素材と構造の関係性だけが残されています。この潔さは、空間に置かれた際にも強い主張をせず、周囲との調和を生み出す要因となっています。
ケアホルムにとって家具とは、独立したプロダクトではなく空間の一部でした。PK15もまた、その思想を体現する存在であり、光の当たり方や周囲の素材との関係によって印象が変化します。籐を透過する光や、曲面に沿って落ちる陰影は、空間に静かなリズムを与えます。