Portex Chair | ポーテックスチェア


About

Designer: Peter Hvidt & Orla Mølgaard-Nielsen(ピーター・ヴィッツ & オーラ・モルゴー=ニールセン)
Manufacturer: Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)
Year: 1944
Material: Beech, Birch, Plywood, Fabric, Leather
Size: W 49 × D 52 × H 82 × SH 45 cm


Story

Portexチェアは、1944年にピーター・ヴィッツとオーラ・モルゴー=ニールセンによってデザインされました。名称が「export(輸出)」のアナグラムであることからも分かるように、戦後復興期におけるデンマーク家具の輸出戦略を象徴する作品です。当時、国内は物資不足に直面しており、輸出向けに効率的な生産と国際流通を念頭に置いた家具の開発は、時代を先取りする試みでした。

最大の特徴は、デンマークにおいて初期の「スタッキング可能な椅子」であった点です。分解可能なノックダウン構造ではなく、積み重ねを選んだ背景には、椅子が過酷な使用環境に耐え得る堅牢性を重視した設計思想がありました。この妥協と革新のバランスは、伝統的な職人技と工業化への移行期を象徴しています。

構造面では、後脚に無垢材を蒸気で曲げるスチームベンディングを採用し、前脚には旋盤加工を施すなど、異なる加工技術を巧みに組み合わせています。座面や背もたれには曲げ合板を使用し、軽量で人間工学的なフォルムを実現しました。また、一部のモデルでは公共施設での使用を想定し、アルミニウム製のジョイントによる連結機能を備えていた点も注目されます。

素材には、戦後の物資不足に対応するため、デンマーク国内で入手可能なブナ材やカバ材を主に使用しました。さらに布張り、革張り、籐の編み込みなど多様なバリエーションが存在し、輸出市場に合わせた柔軟な展開が試みられました。

Portexシリーズはチェアのみならず、イージーチェアやテーブルも展開され、シリーズ家具として統一されたデザイン哲学を示しました。この経験は後の代表作「AXチェア」に直結し、ノックダウン構造や成形合板技術の進化を後押ししました。

Portexチェアは、デンマークモダンデザインが世界に広がる基盤を築いた実験的かつ戦略的な作品であり、工芸と工業、国内需要と輸出志向の交差点として再評価されるべき存在です。

 

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