About
Designer: Hans J. Wegner（ハンス・ウェグナー）
Manufacturer: PP Møbler（PPモブラー）
Year: 1975
Material: Oak, Ash
Size: W126/140/154 × D126/140/154 × H70/72 cm
Story
PP70テーブルは1975年、ハンス・J・ウェグナーが円熟期に生み出した作品です。生涯で500脚以上の椅子を手がけた彼が、長年の活動を経てようやく「自作の椅子にふさわしい円形ダイニングテーブル」を形にしたものです。そのデザインは単なる新作ではなく、椅子群を正しい文脈で提示するための解答として構想されました。
製作を担ったのは、1953年創業のPPモブラーです。創業者ペダーセン兄弟の妥協なき木工技術は、ウェグナーの信頼を勝ち取りました。布張りで隠れるフレームさえも一級品に仕上げるという姿勢は、ウェグナーを深く感銘させ、この工房を最良のパートナーとして位置づけるきっかけとなりました。
PP70はその信頼関係の結晶です。無垢材を用いたシンプルな円形天板と堅牢な脚部、伸長機構を備えた構造は、デンマークモダンの美学と機能主義を体現しています。特筆すべきは「同一丸太（Same Log）」の理念で、天板と伸長板を必ず同じ丸太から切り出すことにより、自然な木目の連続性を実現しています。これはコストや手間を超えた哲学的実践であり、木をひとつの生命体として尊重する態度そのものです。
PP70のフォルムは民主的な円卓として、人と人との対話を促すデザインです。PP52キャプテンチェアやPP58ファイナルチェアなど、ウェグナー自身が手がけた椅子との調和を意図して設計されており、アンサンブル全体での美を追求する彼の成熟したデザイン観を象徴しています。
今日、PP70は単なるテーブルを超え、デンマークデザインの核心を静かに語り継ぐ存在です。素材への誠実さ、普遍的な造形、そして工房とデザイナーの共生的進化を体現し、世代を超えて受け継がれる「機能的な家宝」として位置づけられています。