About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: Mikael Laursen(ミカエル・ラーセン)
Year: 1942
Material: Oak / Teak, Fabric, Leather, Sheepskin, Zebra Hide
Size: 幅 61–63.5cm × 奥行き 74–77cm × 高さ 約100cm
Story
ハンス・J・ウェグナーがデザインした「ML-33」は、1942年に製造された最初期のロッキングチェアです。彼が自身のスタジオを設立する前に生み出されたこの作品は、職人としての経験とデザイナーとしての新たな挑戦が融合した重要な過渡期の椅子でした。
製造を担ったのは、1928年に創業されたミカエル・ラウルセン工房。彫刻的な装飾を得意とする工房であり、その技術がML-33にも色濃く反映されています。背もたれの縦桟には「Y字型」の構造が採用され、軽やかさと強度を両立。さらに、アームやフレームには蔦や葉をモチーフとした繊細な彫刻が施され、ウェグナーの初期デザイン特有の装飾性が表現されています。
後のミニマルなデザインとは異なり、ML-33は装飾と構造が共存する作品です。これは、彼が「古い椅子から外側のスタイルを剥ぎ取り、純粋な構造を見出す」という哲学へ移行する前段階を物語るものでした。特に彫刻付きの初期モデルは希少性が高く、コレクターズアイテムとしても特別な価値を持ちます。
素材は主にオーク材が使われ、耐久性に優れると同時に経年による色調の変化が味わいを深めます。個体によってはチーク材が用いられた例も存在し、さらに張り地にはファブリックや本革、羊毛、シープスキン、ゼブラハイドなど多様なバリエーションが確認されています。これらは所有者の美意識を反映し、一脚ごとに異なる物語を紡いできました。
寸法には工房生産らしい微妙な個体差が見られ、幅や奥行きに1〜2cm程度の差異があります。これは大量生産ではなく、熟練した職人の手仕事によって製作された証であり、ヴィンテージ家具ならではの個性となっています。
1944年にデザインされた後継モデルJ16が量産化され、広く普及したのに対し、ML-33は少量生産に留まりました。この違いは、ウェグナーが「職人のための家具」から「社会に広く届ける家具」へと移行する転換点を象徴しています。
今日に至るまで、ML-33は「椅子の巨匠」ウェグナーが若き日に示した探究心と職人との協業の成果を体現する、時代を超越した揺れる傑作として語り継がれています。