Story
シグヴァルド・ベルナドッテ(1907–2002)は、スウェーデン国王グスタフ6世アドルフの第2王子として生まれながら、王子の称号を捨てて職業的デザイナーの道を歩んだ特異な人物です。彼の経歴は、王族という特権的立場から平民としての職業人生へと転換する稀有な例であり、北欧デザイン史においても際立った存在感を放っています。
ベルナドッテは1920年代にストックホルム王立美術院で学び、グンナー・アスプルンドの展示会を契機に機能主義に傾倒しました。装飾を排し、合理性と社会性を重視する機能主義は、王室の伝統的美意識とは正反対のものであり、彼が自身のアイデンティティを転換する大きな動機となりました。
1930年からはデンマークの銀器メーカー、ジョージ・ジェンセンと長期的な協働を開始します。ここで彼はアール・デコの装飾性と機能主義を融合させた独自のスタイルを確立し、代表作「ベルナドッテ・カトラリー(1939)」を発表しました。溝のある柄は美的装飾であると同時に、グリップの向上という機能的役割を果たしており、フォルムと機能の統合を実現した革新的な例として評価されています。
戦後はアクトン・ビョルンと共にデザイン事務所「ベルナドッテ&ビョルン」を設立し、スカンジナビアにおける初の専門インダストリアルデザイン事務所を築きました。彼らはタイプライターや電卓といったオフィス機器、プラスチック製のマルグレーテ・ボウル、さらに公共デザインまで幅広く手掛け、デザインを芸術から産業コンサルティングへと拡張させました。
晩年に至るまでベルナドッテは、ICSID(国際工業デザイン団体協議会)の会長を務めるなど、国際的なデザイン組織の発展に尽力しました。王子の称号を捨て、平民として世界的に評価された彼の生涯は、北欧デザインの社会的意義を体現する象徴的な歩みといえます。
About
Year: 1907–2002
Place: Stockholm(ストックホルム)
Manufacturer: Georg Jensen(ジョージ・ジェンセン)、Rosti(ロスティ)、Facit(ファシット)、Original-Odhner(オリジナル・オードネル)
Designer: Sigvard Bernadotte(シグヴァルド・ベルナドッテ)
History
1907: スウェーデン王室に誕生、グスタフ6世アドルフの第2王子となる
1929: グンナー・アスプルンドの展示会を視察し、機能主義に傾倒する
1930: ジョージ・ジェンセンとの契約を開始、銀器デザインを手掛ける
1934: 王子の称号を離脱、平民としてデザイナーの道を選ぶ
1939: ベルナドッテ・カトラリーを発表、ニューヨーク万博に出品
1939: メトロポリタン美術館に銀器作品が収蔵される
1949: アクトン・ビョルンと「Bernadotte & Bjørn」を設立
1950: Rosti社の「マルグレーテ・ボウル」をデザイン
1950年代: FacitやContex社のタイプライター・電卓のデザインを手掛ける
1960年代: Marabou社のロゴ刷新、ストックホルム地下鉄の色彩コンサルティングを担当
1960年代: ICSID(国際工業デザイン団体協議会)会長に就任
2002: 逝去、北欧デザイン界に多大な功績を残す
Furniture
・Bernadotte Cutlery | ベルナドッテ・カトラリー(1939、Georg Jensen)
・Coffee Service No.849 | コーヒーサービス(1939、Georg Jensen)
・Margarethe Mixing Bowl | マルグレーテ・ミキシングボウル(1950、Rosti)
・Facit Typewriter | ファシット・タイプライター(1950年代、Facit)
・Contex Calculator | コンテックス・電卓(1950年代、Contex)
・Original-Odhner Adding Machine | オリジナル・オードネル計算機(1950年代)
・Wall Lamp 6065 | ウォールランプ(1950年代、IFO electric)