ハンス・J・ウェグナーとヨハネス・ハンセン:職人技とデザインの共生


ハンス・J・ウェグナーとヨハネス・ハンセンの協働が生んだ革新

ハンス・J・ウェグナー(Hans J. Wegner)と家具職人ヨハネス・ハンセン(Johannes Hansen)の長年にわたる協働は、デンマークモダンの国際的な成功を支えた象徴的な関係でした。
この関係性は「デザインと職人技の共生」という理念を具現化したものであり、両者の信頼関係から生まれた家具の数々は、今なお世界中で高い評価を受けています。

ウェグナーが描いた有機的で構造的なデザイン思想と、ハンセン工房の厳格なクラフツマンシップが融合することで、単なる機能性を超えた“芸術作品としての家具”が誕生しました。
その成果はデンマークデザインの黄金期を象徴する存在として、後世に深く刻まれています。


指物師組合展に見るデンマークモダンの原点

1940年にウェグナーとハンセンが出会って以来、両者は約30年間にわたり緊密な協働を続けました。
その舞台となったのが、毎年コペンハーゲンで開催された「指物師組合展(Snedkernes Efterårsudstilling)」です。

この展覧会は、デザイナーとキャビネットメーカーが新しい家具の概念を共創する場であり、デンマーク独自の職人文化を発展させる中心的存在でした。
ウェグナーとハンセンはこの展示を通じて、素材の可能性を極限まで追求し、機能と美の両立を実現する数々の名作を生み出しました。


名作に宿る職人の対話と創造の軌跡

ウェグナーとハンセンの協働は、多くの歴史的名作によって語り継がれています。

1947年の《ピーコックチェア(Peacock Chair)》は、伝統的なウィンザーチェアを再解釈し、背もたれのスピンドルを扇状に広げた革新的デザインです。
この造形はフィン・ユールによって「孔雀の尾」に例えられ、デンマークモダンを象徴する椅子の一つとなりました。

続く1949年の《ザ・ラウンド・チェア(The Round Chair)》では、ハンセンがウェグナーにより伝統的な椅子の製作を求めたことが発端でした。
ウェグナーはわずか48時間で設計を完成させ、完成品は翌年アメリカで「The Chair」と呼ばれ、国際的な注目を集めました。

1953年の《アーキテクツ・デスク(Architect’s Desk)》は、モデルJH571として知られ、大胆な脚の角度と図形的構成が特徴です。
また、1944年の《フィッシュ・キャビネット(Fish Cabinet)》は、複雑な象嵌細工をウェグナー自身が手作業で仕上げた伝説的作品として知られています。


継承されるクラフツマンシップと精神的遺産

ヨハネス・ハンセンは1961年に亡くなりましたが、その工房は息子のポール・ハンセンによって引き継がれ、ウェグナーとの協働を継続しました。
しかし、1990年代にヨハネス・ハンセン木工所(Johannes Hansen Møbelsnedkeri)は閉鎖を余儀なくされました。

その後、PP Møbler(PPモブラー)が多くのウェグナー作品を継承し、デンマークのクラフツマンシップを現代に伝えています。
かつてハンセン工房で製造されたオリジナルモデル、例えばJH512フォールディングチェアなどは、今日ではコレクターズアイテムとして高い評価を受けています。

このように、ウェグナーとハンセンの協働は、単なるデザイナーと職人の関係を超え、「文化としての家具づくり」という理念を確立しました。
その思想は、現在のデンマークデザインの根幹に息づいています。


デンマークモダンの精神を未来へ

本展では、ウェグナーとハンセンが築いた信頼と創造の物語が、作品を通して再び語られます。
木材の質感、手加工の跡、そして座り心地に宿る静かな美しさは、機械生産が主流となった現代においてもなお、私たちに“手仕事の尊さ”を思い出させてくれます。

ウェグナー展は、デンマーク家具の原点に立ち返り、デザインと職人技がいかに共生し、文化としての美を築き上げたかを改めて見つめ直す機会となるでしょう。


(展示情報)

織田コレクション ハンス・ウェグナー展 ─ 至高のクラフツマンシップ
会期:2025年12月2日(火)〜2026年1月18日(日)
会場:渋谷ヒカリエ9F ヒカリエホール
公式サイト:bunkamura


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