JH501・JH503(PP501・PP503)The Chair | ザ・チェア

About

Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: Johannes Hansen(ヨハネス・ハンセン)PP Møbler(PPモブラー)
Year: 1949
Material: Teak, Oak, Walnut, Ash, Cherry, Rattan, Leather
Size: W630 × D460-520 × H740-760(SH440-450)mm


Story

1949年、ハンス・J・ウェグナーがデザインした「ザ・チェア(JH-501 / JH-503)」は、デンマーク・モダンデザインを世界に広めた象徴的な作品です。デンマーク国内では「デン・ルンデ・ストール(Den Runde Stol)」=「丸い椅子」と呼ばれ、アメリカでは単に「The Chair」として広く知られています。その誕生は、コペンハーゲン家具職人組合の展示会での初披露とともに、『インテリアズ』誌による「世界で最も美しい椅子」という称賛によって、一気に国際的評価を獲得しました。

 

デザインの発想は、雇用主であるヨハネス・ハンセンの「より伝統的な椅子を」という要望から始まります。当時、ウェグナーは合板を使った革新的な作品を多く手掛けていましたが、この椅子はあえて無垢材と伝統的な構造に立ち返り、わずか48時間という短期間で設計されました。しかしその簡素なシルエットの裏には、熟練の木工技術と緻密な計算が隠されています。

 

最大の特徴は、背もたれと肘掛けを一体化させた半円形のフレームです。この曲線は視覚的な美しさだけでなく、木材の強度を最大限に引き出す構造的合理性を備えています。初期モデル(JH-501)では、背もたれの接合部を籐で巻いて継ぎ目を隠していましたが、1950年には「ジグザグ模様のフィンガージョイント」が導入され、視覚的にも一体感のある無垢材フレームへと進化しました。この接合方法は、強度と耐久性を高めるだけでなく、デザイン的なアクセントにもなっています。

 

JH-501は籐編み座面を備え、軽快で通気性の高い仕上がりが魅力です。一方JH-503は張り地仕様で、革や布による柔らかな座り心地を提供します。JH-503が生まれた背景には、湿度差による籐座面のたるみというアメリカ市場特有の課題がありました。張り地仕様はこの問題を解決すると同時に、1960年のケネディ・ニクソン大統領選テレビ討論会で使用され、一躍「ケネディ・チェア」としても知られるようになりました。

 

製造は当初、ヨハネス・ハンセン工房が担い、熟練職人の手作業による少量生産が続きました。例えばシカゴのクラブからの400脚の注文に2年を要し、1966年時点でも1日3脚程度しか生産できなかったと言われます。1993年以降はPPモブラーが製造を引き継ぎ、ウェグナーの改良を反映しつつ、持続可能性と100年以上の耐用年数を目指した高品質な製作を続けています。

 

ザ・チェアは、単なる家具ではなく「人間工学・素材美・職人技の結晶」です。流行を超えて現代の空間にも自然に溶け込み、使う人に安心感と存在感を与える。その普遍的な価値こそが、この椅子が70年以上経った今も第一線で愛される理由です。

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