JH518(PP518) Bull Horn Chair | ブルホーンチェア

About

Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: Johannes Hansen(ヨハネス・ハンセン)PP Møbler(PPモブラー)
Year: 1961
Material: Oak, Ash, Walnut, Leather, Fabric
Size: W720 × D510 × H730–750(SH420–530)mm


Story

JH-518(Bull Horn / ブルホーン)は、ウェグナーの成熟した設計感覚が凝縮された椅子です。名称の由来である角状のトップレール(背とアームの一体構成)が外へ向けて開き、軽やかな線と確かな掛け心地を同時に生み出します。どの方向から眺めても面のつながりが途切れず、最小限の要素で最大の表情を引き出す発想が貫かれています。

 

系譜としてはラウンドチェア(JH-503/PP503)の「腕—背が連続する」思想を受け継ぎながら、JH-518は幅にゆとりを持たせ、全高はやや抑えた安定感のあるバランスにまとめられています。結果として、存在感はありつつも圧迫感は少なく、空間に静かな緊張と開放性をもたらします。

 

最大の要点はトップレールの三次元曲面です。前方へ緩やかに伸び、外側へわずかに張り出すラインが前腕から手首までを自然に受け止めます。背板との接合部は段差を感じさせない処理で、視覚・触覚の両面で“連続体”として認識されます。この造形を成立させるために、木取りの段階で木理の方向と含水率が厳密に管理され、立体曲げ、精密な削り、確実な接合、面取りと研磨の仕上げまでが一貫して噛み合っています。

 

下部フレームは静かで堅牢です。脚と貫の確かなほぞ組み、応力が集中する座枠部の断面調整によって、上部の躍動を支える「見えない強さ」を確保しています。素材は主にオーク、アッシュ、ウォルナットの無垢材で、木肌の起伏が光の返り方と手触りに表情を与えます。座はレザーまたはファブリック張りで、沈み込みと復元力のバランスを整え、食事姿勢と寛ぎ姿勢の双方に無理のない掛け心地を提供します。

 

人間工学的には、肩甲骨下部をそっと支える背のカーブ、腕を上げすぎないアームの高さ、外へ開いた先端形状がポイントです。彫刻的な主張と日常性の両立というウェグナーの目標が、ディテールの配慮によって実体化しており、JH-518はその設計哲学を明快に示す一例と言えます。

 

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