About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: PP Møbler(PPモブラー)
Year: 1955(PP52)、1962(PP62)
Material: Oak, Ash, Teak, Leather
Size: PP52 W600 × D520 × H720 × SH450 mm / PP62 W600 × D520 × H680 × SH450 mm
Story
キャプテンズチェアは、ハンス・J・ウェグナーが「安定性と快適性」を追求して生み出した代表的な作品のひとつです。1975年に発表されたPP52は、背からアームへと連続する優美な曲線と、堅牢な構造を併せ持つ椅子として高く評価されました。背もたれとアームの一体的なデザインは、座る人を包み込み、威厳と安心感を与えます。その名称が示すとおり「キャプテンの椅子」という呼び名には、権威と安定を象徴する意図が込められています。
PP52の特徴のひとつが、接合部に施された美しい蟻継ぎです。これは単なる構造的要素ではなく、ウェグナーの「素材への誠実さ」を体現したものです。接合を隠さずあえて見せることで職人技を称揚し、構造そのものをデザインの一部へと昇華させています。また、蒸気曲げによって成形された背のカーブや、張り地を施した座面は、人間工学に基づいた快適性を実現しており、実用性と美しさを両立させています。
同年に登場したPP62は、PP52と同じフレームを持ちながら座面をペーパーコード張りとしたバリエーションモデルです。PP52がアップホルスタード仕様で重厚な座り心地を提供するのに対し、PP62は軽やかな外観と通気性を備え、よりナチュラルな印象を与えます。両者は座面仕様の違いによって性格を分ける姉妹モデルであり、同じ構造を共有しながら使う環境や用途に合わせて選択できるよう設計されています。
この椅子が広く知られるようになったのは、1978年にデンマークの国際フェリー会社DFDSが大量に採用したことでした。公共空間で求められる耐久性と安定性を備えながら、家庭やオフィスでも自然に溶け込む柔軟性を持つ点が評価されたのです。
今日でもPPモブラーの熟練した職人によって生産が続けられています。最高級の無垢材を選び抜き、蒸気曲げ、蟻継ぎ、手仕上げによるオイルフィニッシュなど、伝統的な木工技術を駆使する姿勢は一切変わっていません。PP52とPP62は、ハンス・J・ウェグナーの「継続的な純化」というデザイン哲学を示す好例であり、機能性と美しさの調和を体現する作品として、今なおデンマークモダンの象徴であり続けています。