About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: PP Møbler(PPモブラー)
Year: 1954
Material: Oak, Ash, Veneer, Textile, Leather, Metal
Size: W86 × D80 × H73 cm / SH37 cm
Story
PP530 Tub Chairは、1954年にハンス・J・ウェグナーによって構想された作品です。その最大の特徴は、二重曲面で構成された背もたれのシェルにあります。単なる曲線ではなく、曲げとねじりを組み合わせた複雑な造形は、当時の積層技術では再現が困難で、合理的な量産は不可能とされていました。そのため、1950年代にはごく少数のプロトタイプしか存在せず、実際の製品化は数十年後まで待たれることとなりました。
2014年、ウェグナー生誕100周年を記念してPPモブラーによって再び生産が開始されました。これは2003年に開発された「3Dベニヤ技術」によって可能になったものです。1ミリ幅にスライスされたベニヤを二方向に曲げることで、ウェグナーが構想した複雑な曲面を実現できるようになり、60年越しにデザインが完成を迎えました。この事実は、ウェグナーの創造性がいかに先見的であったかを物語っています。
Tub Chairはまた、背もたれに調整機構を備えており、直立からリクライニングまで3段階の角度に設定が可能です。これにより、読書、会話、休息といった多様なシーンに応じた快適性を提供します。素材はオークやアッシュの無垢材に加え、成形合板、テキスタイルやレザーが組み合わされ、伝統的な木工と革新的な技術が融合した構造となっています。
その快適性と視覚的な美しさは高く評価され、「快適でありながら視覚的にも見事」と評されることが多く、見る角度によって印象が変化する背もたれの造形は、彫刻的存在感を強調しています。2014年のミラノ家具見本市でも披露され、国際的な注目を集めました。
PP530 Tub Chairは、ウェグナーの「技術を超えて未来を見据えるデザイン精神」を象徴する作品です。構想から数十年後にようやく実現したこの椅子は、彼の遺産がいかに普遍的で、技術の進歩とともに息づき続けるかを示しています。