フリッツ・ハンセンによる幻の傑作の再生産
1954年に構想されながら長く実現されることのなかったポール・ケアホルム作「PK23™ ラウンジチェア」が、2025年にフリッツ・ハンセン社の手によって現代に蘇った。70年の時を経て製品化されたこの椅子は、ケアホルムが木工からスチールへ移行する過渡期にあたる重要な作品であり、彼のデザイン哲学を再評価する上で不可欠な存在といえる。

PK23™は、成形合板を用いた有機的なフォルムとスチール脚の軽やかさが融合し、空間に「呼吸する家具」としての透明感を与える。また、分割シェルと金属コネクターという技術的制約から生まれたディテールが、今日では意匠的特徴として高く評価されている。

さらに2025年7月には、前面張り(front-upholstered)仕様が発表された。これは成形合板の美しさを背面から見せつつ、座面に張り地を施すことで快適性を高めた進化形である。ケアホルムが重んじた素材の誠実さを守りながら、現代市場の要求に応える「選択的適応」の象徴といえる。
PK23™の復活は、ケアホルム遺族との協働を通じて真正性を担保しながら進められたものであり、単なる復刻にとどまらない。フリッツ・ハンセン社による意図的なキュレーションの一環として、ケアホルムの遺産を次世代へと広げる戦略的な意味を持っている。




ポール・ケアホルムとは
ポール・ケアホルム(1929–1980)は、デンマークを代表する家具デザイナー。木工職人としての修練を出発点に、スチールやレザーといった工業素材を芸術的に昇華させた。「PK22™」や「PK25™」などの名作で知られ、素材の特性を尊重し、構造を隠さずに見せる設計哲学を貫いた。その作品群は現在もフリッツ・ハンセン社によって継承・発表され、世界的な評価を得ている。