About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: Andreas Tuck(アンドレアス・ツック)
Year: 1956
Material: Teak, Steel
Size: W50 × D50 × H50 cm
Story
AT34バーキャビネットは、ハンス・J・ウェグナーの幅広い創作活動の中でも特に希少な作品として位置づけられます。彼のデザイン哲学「オーガニック・ファンクショナリズム」が、椅子に限らず収納家具にも応用され、機能性と造形美が高度に融合した事例といえるでしょう。
外観はシンプルな立方体ですが、角に施されたフィンガージョイントが職人技を象徴的に示し、構造的強度と装飾性を兼ね備えています。素材には温かみのあるチーク材が選ばれ、直線的なフォルムに落ち着いた存在感を与えています。一方で、脚部にはスチールを採用し、視覚的な軽やかさとモダンな印象を加えています。
最大の特徴は、上部と前面のパネルが独自の「フレンチスタイル」の機構で滑らかに開閉し、内部のバーセクションが美しく展開する点にあります。引き出しや棚は実用性を重視して配置され、ボトル用の収納スペースも備えられています。内部の一部にフォルマイカ素材を使用した事例もあり、耐久性や実用性への配慮が見て取れます。
ウェグナーとアンドレアス・ツック工房との協働は、テーブルやキャビネットなどを中心に数多く生み出されましたが、AT34はその中でも特に革新的な一作です。外部のミニマリズムと内部の複雑な機構の対比は、ウェグナーが家具を「構造美と機能美の融合」として捉えていたことを端的に示しています。
今日では現存数が限られており、真正な個体には「ANDR. TUCK / DESIGN HANS J. WEGNER / MADE IN DENMARK」などの刻印が残されています。市場においても希少性が高く、椅子作品ほど広く知られてはいないものの、デザイン史的価値において特別な位置を占めています。

