About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: Andreas Tuck(アンドレアス・ツック)
Year: 1950s
Material: Teak
Size: W85.5 × D57 × H74 cm(closed) / W114 × D85.5 × H74 cm(open)
Story
AT306テーブルは、ハンス・J・ウェグナーがアンドレアス・ツック社のためにデザインした、極めてユニークな補助テーブルです。カタログ記載には「AT316、AT333、AT334の追加テーブル」と明記されており、単体の拡張テーブルではなく、大型ダイニングテーブルを補完する役割を担っていました。この位置づけは、従来のエクステンションテーブルとは異なる概念を示しており、ウェグナーの家具システムに対する柔軟な発想を物語っています。
デザインの核心は、折りたたみ式天板のメカニズムにあります。天板を二つ折りにすることで、通常はコンパクトな形状から広い面積に拡張することが可能です。金属部品に頼らず木材の構造のみで完結する設計は、ウェグナーが追求した「有機的機能主義」を見事に体現しています。
アンドレアス・ツック社は高品質な家具を製造した工房として知られ、1970年代初頭に閉業したとされています。その後、一部のウェグナーデザインはPPモブラーに継承されましたが、AT306のようなツック製オリジナル品は、今日では希少な存在です。
カタログ写真には、アンドレアス・ツック製のAT306テーブルと、カール・ハンセン&サン製のCH29「ソーバックチェア」が並置された様子が記録されています。直線的でミニマルなテーブルの構造と、A字型の脚と曲線を描く背板を備えた椅子の造形は、互いを引き立て合い、空間全体に統一感をもたらしています。この組み合わせは、ウェグナーが個々の家具ではなく、インテリア全体の調和を意識してデザインしていたことを示す象徴的な事例です。
このテーブルは、ゲームテーブル、ティーテーブル、補助テーブルなど多様な役割を果たし、日常生活に柔軟に対応しました。その多機能性は、デンマーク文化に根付く「ヒュッゲ」の概念を体現し、今日においてもその普遍的な価値を放ち続けています。

