About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: Andreas Tuck(アンドレアス・ツック)
Year: 1960
Material: Rosewood / Teak, Steel
Size: 幅 200cm × 奥行き 90cm × 高さ 72cm
Story
ハンス・J・ウェグナーとアンドレアス・ツック社の協業は、1950年代から1960年代にかけてデンマーク・モダニズムの黄金期を築いた重要な関係でした。ウェグナーは熟練したキャビネットメーカーとして培った知識を活かし、素材への深い理解と職人技を融合させ、数々の傑作を生み出しました。その中でAT325デスク/テーブルは、彼のキャリアにおける転換点を示す作品として特別な存在です。
このモデルは、従来の木材主体のデザインから一歩進み、スチールと木材という異なる素材を融合させた点に大きな特徴があります。天板にはローズウッドまたはチークが使用され、豊かな木目と色調が視覚的な温かみをもたらします。一方、脚部にはスチールが採用され、シャープで軽快な印象を与えています。金属と木材のコントラストは、ウェグナーが伝統に留まらず国際的なデザイン潮流を取り入れていたことを物語っています。
AT325は引き出しを備えた実用的なワークデスクでありながら、全方位から美しく見える自立型の造形が採用されている点も特徴です。壁際に置くだけでなく空間の中心に配置できる設計は、家具を機能と美の双方で楽しむというウェグナーの思想を体現しています。引き出しの真鍮製の鍵穴や、脚部のサボ(木部のカバー)など細部の仕上げにもこだわりが見られます。
このデスクは1960年代に製造され、デンマーク・モダニズムが国際的に最も注目を集めた時期と重なります。アンドレアス・ツック社の閉鎖(1972年)により生産が途絶えたため、現存数は極めて限られています。そのため、今日のヴィンテージ市場において非常に高い評価と希少価値を持ち、ローズウッド仕様のモデルは特に収集家の間で垂涎の的となっています。
AT325デスクは、ウェグナーの創作活動における挑戦と進化を象徴する作品であり、デザイン史における重要な位置を占めています。その存在は、単なる執務用家具を超えた、建築的かつ彫刻的な芸術作品としても鑑賞に値します。

