PP586 Fruit Bowl | フルーツボウル


About

Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: PP Møbler(PPモブラー)
Year: 1956
Material: Oak, Ash, Cherry, Teak, Mahogany, Steel
Size: W65 × D65 × H33 cm


Story

1950年代のデンマークは、モダンデザインが世界的に評価を受けた黄金期でした。その中心にいたハンス・J・ウェグナーは、実用主義を基盤としながらも芸術性を併せ持つ数々の作品を発表し、家具デザイン史に大きな足跡を残しました。その中でも「PP586 フルーツボウル」は、彼の作品群における特異な存在です。

この作品は1956年、ヨハネス・ハンセン工房のためにデザインされたもので、当初は「JH586」として発表されました。深さを抑えた直径約65cmの木製ボウルを、細身のスチール脚で支える構造は、彫刻的でありながら軽快さを併せ持っています。特に木工旋盤を駆使した巨大なボウルは、寄木の無垢材を削り出す高度な技術の結晶であり、ウェグナーの卓越した職人性を象徴しています。

初披露の場となった家具職人ギルド展では、その贅沢で彫刻的なフォルムが注目を集めました。ジャーナリストの「なぜこれほど贅沢なものを?」という問いに、ウェグナーは「時にはすべてを解放したくなることもあるでしょう」と答えた逸話は有名です。この言葉が示すように、フルーツボウルは彼が機能主義の枠を一瞬解き放ち、純粋な造形美を追求した象徴的な作品といえます。

その後、1991年にPPモブラーが生産を再開し、「PP586」として現代に継承されました。さらに2006年には、デザイン誕生50周年を記念して、再生チーク材を使用した限定50台の記念モデルが制作され、ウェグナーの遺産とサステナビリティの理念を融合させた存在として注目を集めました。

フルーツボウルは単なる器としての用途を超え、空間に存在するだけで美を放つ彫刻的なオブジェです。ウェグナーの完璧なフォルムへの探究心と、職人技への深い敬意が最も自由に表現された作品として、デンマークデザイン史における孤高のマスターピースとなっています。

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