Egill Jacobsen | エギル・ヤコブセン


Story

エギル・ヤコブセン(Egill Jacobsen, 1910-1998)は、デンマーク近代美術における最も重要な抽象画家のひとりであり、特に「仮面」のモチーフで知られる存在です。彼は鮮烈な色彩と象徴的な形態を駆使し、個人的な感情と社会的緊張を同時に描き出しました。その独自の表現は、批評家から「仮面の巨匠」と称され、20世紀美術史における確固たる地位を築きました。

1910年にコペンハーゲンに生まれ、デンマーク王立美術アカデミーで学んだ彼は、初期には伝統的な風景画を手掛けていました。しかし1934年のパリ旅行でマティスやピカソの作品に触れたことが転機となり、民族美術やプリミティヴ・アートに影響を受けながら独自の抽象様式を確立しました。アフリカの仮面に着想を得た作品群は、単なる造形を超え、秘儀的な演劇や人間存在の根源を示唆する象徴として展開されました。

第二次世界大戦期には、アスガー・ヨルンらと共に前衛芸術集団「ヘルヘステン」に参加し、占領下デンマークで芸術を通じた抵抗活動を行いました。彼の作品《オホプニング》は時代の恐怖を色彩と形態で表現した傑作であり、「最初のコブラ絵画」と称されることもあります。戦後には国際的な前衛運動「コブラ」に参加し、民俗学や子どもの描画に着想を得た自発的で鮮烈な表現を推し進めました。

1959年にはデンマーク王立美術アカデミーの教授に任命され、同国で初めて抽象芸術を学術の場に定着させた存在となりました。教育者としても後進に大きな影響を与え、抽象表現の普及に貢献しました。晩年まで描き続けられた「仮面」の作品群は、個人の内面と社会的状況の両方を映し出す普遍的な言語として、今なお強い力を持っています。

ヤコブセンの芸術は、伝統から出発し、戦争を経て国際的前衛の最前線に至ったデンマーク近代美術の変革を象徴するものです。その作品は、見る者に鮮烈な色彩と深い感情の共鳴をもたらし、20世紀美術の中で不朽の存在感を放ち続けています。


About

Year:1910-1998
Place:Copenhagen(コペンハーゲン) – Copenhagen(コペンハーゲン)
Museum:Statens Museum for Kunst(デンマーク国立美術館)、Kunsten Museum of Modern Art(クンステン近代美術館)、Tate Modern(テート・モダン)


History

1910:コペンハーゲンに生まれる
1932:デンマーク王立美術アカデミーで学ぶ
1934:パリ旅行でピカソ、マティスに触れる
1936:美術家秋季展に出品、「仮面」モチーフを発表
1940:戦時下に《バッタのダンス》を制作
1941:「ヘルヘステン」に参加、占領下で芸術活動を展開
1945:終戦後、表現に楽観的な色彩を取り戻す
1948:国際芸術運動「コブラ」に参加
1949:コブラ展に出品し国際的評価を得る
1951:コブラ解散後、病を得て療養生活に入る
1957:フヴィドオウア市庁舎の装飾を手掛ける
1959:デンマーク王立美術アカデミー教授に就任
1965:ワルシャワのザヘンタ国立美術館で個展開催
1969:《黒い仮面》を制作、幾何学的な仮面様式を展開
1974:シェフェルゴールデンの装飾を担当
1980:抽象芸術の教育者として高い評価を確立
1985:エッカースベルク・メダルを受賞
1990:仮面シリーズ後期作品を発表
1994:晩年の大規模回顧展が開催される
1998:コペンハーゲンで逝去


Works

・Ophobning | 蓄積
・Græshoppedans | バッタのダンス
・Composition in Red | 赤のコンポジション
・Sort maske | 黒い仮面
・Forsvundne Objekter | 失われた物体
・Mask | 仮面
・Spejlvendt
・Red mask | 赤い仮面
・Lyrisk Maske | 叙情的な仮面
・Komposition med maske | 仮面のあるコンポジション
・Mask in Blue
・Dobbelt Maske | 二重の仮面
・Grøn Maske | 緑の仮面
・Abstrakt Komposition
・Maske i Rød og Sort
・Maskernes Dans | 仮面の舞踏
・Gul Maske | 黄色の仮面
・Komposition med Farver
・Maske i Blå og Grøn
・Maske med Fugleform

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