Vilhelm Lundstrøm | ヴィルヘルム・ルンドストローム


Story

ヴィルヘルム・ルンドストローム(1893-1950)は、20世紀デンマークを代表する画家であり、国内におけるモダニズム運動を視覚的に確立した中心人物です。彼は、幼少期から自然や日常の風景を描くことに強い関心を示し、アマ島で過ごした少年期の体験がその後の「日常的モチーフを記念碑化する」という芸術的姿勢の源泉となりました。

王立美術院に学んだものの、伝統的教育に反発して退学し、1916年に芸術家秋季展でデビューしました。彼は早い段階からフランスのキュビズムやピュリスムに触れ、デンマークにこれらを導入した最初の芸術家の一人となります。1917年に制作した「梱包箱の絵」シリーズは、木片や紙片を組み合わせた大胆なコラージュであり、当時の批評家から「芸術的詐欺」と非難されながらも、従来の美術観を揺るがす革新として後世に位置づけられました。

1920年代、パリ滞在によってピカソ、ブラック、セザンヌらの芸術に触れたことで、彼の作風は幾何学的構成と静謐な秩序へと変化しました。南フランスでの長期滞在中には「ピュリスム様式」を確立し、単純化された形態と抑制された色彩によって、オレンジや水差しといった日常の物を普遍的造形へと昇華させました。彼の静物画は単なる対象の描写を超え、「デンマーク的静謐さ」を持ったモダニズムの表現として高く評価されています。

また、彼の影響は絵画領域にとどまらず、デザイナーのポール・ヘニングセンや家具デザイナーのフィン・ユールに及びました。両者はルンドストロームの「単純化と秩序」の美学に触発され、各自の分野においてデンマーク・デザインの新しい方向性を築きました。フィン・ユールは自邸にルンドストロームの作品を飾り、家具展示会に彼の絵を用いることで、美術とデザインの境界を超えた総合的なモダニズムの理念を提示しました。

晩年のルンドストロームは、より自由で豊かな色彩を用いる柔らかな様式に移行しながらも、常に「色と形の純粋さ」を追い求め続けました。その生涯の探求は、デンマーク・モダニズムを国際的に認知させる礎となり、今日もなお彼の作品は国内外の美術館において研究・展示され、再評価されています。


About

Year:1893 – 1950
Place:Amager(アマー島) / Copenhagen(コペンハーゲン)
Museum:Statens Museum for Kunst(デンマーク国立美術館)、Kunsten Museum of Modern Art Aalborg(クンステン近代美術館)、Ordrupgaard(オルドロップゴー美術館)、Nasjonalmuseet Oslo(ノルウェー国立美術館)、ARoS Aarhus Art Museum(オーフス美術館)、Ribe Kunstmuseum(リーベ美術館)


History

1893:コペンハーゲン近郊アマ島に生まれる。労働者階級の家庭に育ち、幼少期から絵画に没頭。
1908:15歳で画家見習いを開始し、技術学校で基礎的訓練を受ける。
1913:王立美術院に入学。伝統的教育に不満を持ちながらも古典技法を学ぶ。
1915:革新的表現を求めてわずか2年で退学、独自の道を模索。
1916:芸術家秋季展にてデビュー。すでにキュビズムの影響が見られる作品を発表。
1917:木片や紙片を組み合わせた初期コラージュ作品を制作、「梱包箱の絵」と呼ばれる新手法を確立。
1918:「Chanson sans paroles」を発表。賛否両論を巻き起こし、美術界に衝撃を与える。
1919:批評家から「精神疾患の表れ」と非難され、現代美術の是非を巡る社会的論争が勃発。
1921:「De Fire(4人組)」を結成し、モダニズムを組織的に推進。以後1928年まで展覧会を継続。
1920年代:パリに滞在し、ピカソやブラックらと同時代の作品に触れる。セザンヌやフェルナン・レジェの影響も受ける。
1923-1932:南フランス・カーニュ=シュル=メールに滞在。ピュリスム様式を確立。
1930:「静物画 with 果物と水差し」を制作。抑制された色彩と幾何学的構成を体現。
1932:「The Architecture」を発表。建築的要素と人物を融合させた代表作。
1933-1938:フレゼリクスベア水泳場のモザイク画を制作。公共芸術として唯一の大規模プロジェクト。
1935-1939:静物画を中心に多作期を迎える。単純化された形態を繰り返し探求。
1940年代:柔らかな筆致と明快な色彩を導入し、作風が変化。フィン・ユールが自邸に作品を収集。
1947:コペンハーゲンで回顧的展示が開催され、評価が高まる。
1950:晩年の代表作「着席女性モデル」を制作。同年コペンハーゲンで逝去。


Works

・Chanson sans paroles | 言葉なき歌(1918)
・Packing Box Picture | 梱包箱の絵(1918)
・Stilleben | 静物(1918)
・Opstilling med frakke | 外套のある静物(1920)
・Frokost i det grønne | 緑のランチ(1920)
・Portrait of a Woman | 女性肖像(1921)
・Seated Male Model | 着席男性モデル(1923)
・Still life with Orange | オレンジのある静物(1924)
・Still life with Bottles | ボトルのある静物(1925)
・Composition with Books | 本のある構成(1926)
・Window Scene with Woman | 窓辺の女性(1929)
・Still life with jars | 瓶のある静物(1930)
・Still life with jug and orange | 水差しとオレンジの静物(1932-33)
・The Architecture | 建築(1932)
・Mosaic for Frederiksberg Swimming Baths | フレゼリクスベア水泳場モザイク(1933-38)
・Still life with Towel | タオルのある静物(1938)
・Woman in Interior | 室内の女性(1939)
・Still life with Bowl | ボウルのある静物(1940)
・Composition with Fruit | 果物のある構成(1941)
・Portrait of a Seated Woman | 着席女性像(1942)
・Still life with Vase | 花瓶のある静物(1944)
・Model in Studio | アトリエのモデル(1946)
・Reclining Woman | 横たわる女性(1949)
・Siddende kvindelig model | 着席女性モデル(1950)

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