About
Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: France & Daverkosen(France & Son)
Year: 1963
Material: Teak, Leather
Size: W 50 × D 64 × H 80 × SH 44 cm
Story
FD191 ダイニングチェアは、1963年にフィン・ユールが手掛けた作品であり、彼のキャリアの円熟期を象徴する椅子です。デンマーク・モダンが国際的評価を確立した後期に登場したこのモデルは、彫刻的な造形美と実用性を融合させたユール独自のアプローチを体現しています。
製造は、国際的な供給体制に優れたフランス&サンによって担われました。小規模工房との協業が多かった初期作品と異なり、この時期のユールは輸出市場を強く意識しており、FD191もその戦略的な成果のひとつといえます。国際市場での需要に応えるために、洗練された量産性を持ちながらも、ユールの高いデザイン基準を満たす仕上がりとなっています。
最大の特徴は、ダイニングチェアとしては極めて珍しい「スプリング内蔵の座面構造」です。ソファのような柔らかい沈み込みと反発力を実現し、食事だけでなく長時間の会話や滞在にも快適さを提供します。この構造は製造コストを引き上げましたが、それこそがユールが人間工学的快適性を最優先に据えた証といえます。
フレームには堅牢で美しい経年変化を見せるチーク無垢材が用いられ、張地には上質な本革が採用されました。チーク材の深みのある色調とレザーの質感は、1960年代のデンマーク家具らしい上品さを強調しています。
また、しばしば混同される1953年の「リーディングチェア」と比較すると、FD191はより広い背もたれと座面、そしてスプリング機構を備える点で大きく異なります。リーディングチェアがシンプルな木製構造を活かした多用途性を特徴とするのに対し、FD191は高級仕様の快適性を追求した椅子であり、ダイニングの枠を超えたラグジュアリーな体験を提供しました。
今日においてもFD191は非常に希少で、市場に流通する個体は限られています。特に、オリジナルのフランス&サンの刻印やスプリング構造が健全に残る椅子は、デンマーク・モダンの歴史的遺産として高く評価されています。