About
Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: France & Daverkosen(France & Son)
Year: 1963
Material: Teak, leather (or vinyl), steel springs
Size: W71 × D67 × H80 × SH45 cm
Story
FD192は、フィン・ユールが初期から追求してきた彫刻的造形を、1960年代の工業化の要請へと適合させた転換点の椅子です。量産を前提としながら、フレームとクッションを意図的に分離して見せる「浮遊する構成」を明確に示し、素材の存在感と軽やかな陰影を両立しています。チーク無垢材のフレームは、断面の厚薄と面取りで動きを持たせ、光を受ける角度で表情を変えます。
座と背はフレームから一歩引いて配置され、視覚的には宙に浮くように見えます。これはユールの建築的思考を反映したもので、荷重を受ける要素(クッション)と支持骨格(フレーム)を役割ごとに独立させ、各部材の形と機能を純化する設計態度が読み取れます。
アームは本作の見どころです。前後方向のラインを緩やかに湾曲させ、手首の収まりと肘の保持を自然に誘導します。フレームから独立した彫刻片のように据えられ、量産家具でありながら高い木工精度を要求する取り付けが施されています。視覚的な軽さと触感の豊かさを両立し、会議や食卓での長時間使用にふさわしい安心感を与えます。
内部構造はフラットスプリングを用いたサスペンションを備え、張り地の下で適度なたわみと復元力を確保します。単なるウレタン充填に頼らない支持系は、着座時の初期沈み込みを抑えつつ、体圧分散と保持力を両立させています。結果として、背・座・肘の三点で身体を受け止める安定した座り心地が得られます。
同シリーズにはアームレスのFD191が存在し、会議室やダイニングのセット運用を想定した展開が行われました。FD192は、その中核を担う「カーバー(主賓席)」として設計され、機能的要件と造形の品位を兼ね備えたユールの工業化期を象徴する一脚として位置づけられます。