FD197 Stacking Chair | スタッキングチェア


About

Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: France & Daverkosen(France & Son)
Year: 1960
Material: Teak, Walnut, Leather
Size: W 50 × D 46 × H 76 × SH 45 cm


Story

FD197 Stacking Chairは、フィン・ユールが1960年代にFrance & Sønのために設計したダイニングチェアであり、彼のデザイン思想の転換期を象徴する作品です。初期の職人技に依拠した彫刻的な椅子とは異なり、このモデルは工業的量産を前提にしつつも、有機的で洗練されたフォルムを維持しています。

フレームにはチークやウォールナットといった高級材が用いられ、背もたれや座面はレザーで仕上げられています。特に座面の「サドルシート」形状は、身体をやさしく支えながらも軽快な印象を与える構造的工夫であり、快適性と美観を両立しています。後脚上部に施された凹面のディテールは、純粋な構造上の必然性を超えた、彫刻的感性の表現といえます。

FD197が「スタッキングチェア」と呼ばれる背景には、当時の国際市場におけるマーケティング的要素もあります。イームズやローランドによる機能主義的な高密度スタッキングモデルとは異なり、FD197の「スタッキング」は移動や収納の容易さを強調する程度の実用的表現にとどまります。この点は、ユールが芸術性を損なわず市場の需要に応えようとした姿勢を示しています。

製造を担ったFrance & Sønは、当時デンマーク家具の輸出を牽引したメーカーであり、アメリカ市場への展開にも積極的でした。ニューヨークのジョン・スチュアートを通じて流通したFD197は、デンマークモダンを国際的に広める上で重要な役割を果たしました。裏面にはFrance & Sønの刻印やジョン・スチュアートのラベルが確認され、真贋の証明に大きな意味を持ちます。

このモデルは現在、House of Finn Juhlによる復刻ラインには含まれていません。そのため、1960年代当時のオリジナル品のみが市場に流通し、ヴィンテージ市場で安定した需要を保っています。華やかなアイコンチェアのように高額ではないものの、デンマークモダンを日常生活に取り入れる上で高い実用性と芸術性を兼ね備えた椅子として評価され続けています。

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