About
Designer: Peter Hvidt & Orla Mølgaard-Nielsen(ピーター・ヴィット & オルラ・モルガード=ニールセン)
Manufacturer: France & Daverkosen(France & Son)
Year: 1958
Material: Beech, Teak, Rattan
Size: W 52 × D 52 × H 72.5 × SH 36.5 cm
Story
FD157 Lチェアは、1950年代後半にピーター・ヴィットとオルラ・モルガード=ニールセンが設計した作品であり、デンマークモダン家具の中でも工業化と職人技の融合を象徴するモデルのひとつです。この椅子は、軽やかなX字型のフレームラインと、籐(ラタン)による背もたれがもたらす温かみを特徴としています。国際輸出を強く意識した構造設計が導入され、分解可能なノックダウン構造が採用されました。これにより、船便輸送に適した効率的な梱包が可能となり、特に米国市場での普及に大きな役割を果たしました。
デザインの背景には、ヴィットとモルガード=ニールセンが一貫して探求した「工業化された美学」があります。積層合板技術を三次元的に応用する革新は、1940年代のポーテックスチェアや1950年のAXチェアに始まりましたが、FD157ではさらに進化し、分解・再組立を繰り返しても強度を保つ構造を実現しました。金属製のジョイントや木製ダボを組み合わせた接合技術により、工業的な効率性と美的な純粋性が両立しています。
また、この椅子は「X-Chair」という愛称でも呼ばれています。座面下から背もたれにかけてのブレースや脚部の交差がX字型に見えるためです。この特徴的なシルエットは、軽快さと堅牢性を兼ね備え、視覚的な緊張感を与える要素となっています。籐の背もたれは工業的なフレームに自然な柔らかさを与え、素材のコントラストが魅力を際立たせています。
France & Sonによる製造背景も重要です。1936年にFrance & Daverkosenとして創業した同社は、1950年代に国際輸出に特化し、デンマーク家具輸出の大部分を担う存在となりました。1958年に登場したFD157は、改名直後のFrance & Son時代を代表するモデルであり、同社の輸出戦略を象徴しています。その後のCADOへの移行後も一定期間製造され、ラベルや刻印によって時期を特定することが可能です。
FD157 Lチェアは、デンマークモダンが目指した「高品質デザインの民主化と国際普及」の達成を体現した作品です。美しさと機能性、輸送効率を同時に実現することで、工業化時代におけるデンマーク家具の到達点を示す重要なアーティファクトとして位置づけられています。