About
Designer: Peter Hvidt & Orla Mølgaard-Nielsen(ピーター・ヴィト & オルラ・モルガード=ニールセン)
Manufacturer: France & Daverkosen(France & Son)
Year: 1950
Material: Teak, Brass
Size: W 160 × D 60 × H 47 cm
Story
FD579 Low Coffee Tableは、1950年代初頭にデンマークの建築家デュオ、ピーター・ヴィトとオルラ・モルガード=ニールセンによってデザインされ、France & Daverkosen(後のFrance & Son)によって製造されました。このテーブルは、デンマーク家具産業が伝統的な職人技から工業的量産へと移行する過程において、その象徴的な存在となった作品です。
最大の特徴は、薄く削ぎ落とされたように見えるナイフエッジ加工の天板です。ソリッドチーク材を用いながらも軽快で浮遊感のあるプロポーションを実現し、モダニズムの求めた「軽やかさ」と「簡潔さ」を体現しています。加えて、脚部の頂点に設けられた真鍮のオーブによる接合は、構造的合理性と意匠的美しさを兼ね備えた革新的なディテールです。
脚部は彫刻的な曲線を持ち、下段には蝶ネクタイ状のストレッチャーを備えた棚板が組み込まれています。この構造により剛性が高められると同時に、工法を隠さずに見せる「誠実なデザイン」の理念が表現されています。Hvidt & Mølgaardの哲学である「素材と構造の正直さ」が、工業化された家具にも確実に反映されているのです。
また、当時の輸出市場を意識した設計も特徴的です。FD579は分解輸送が可能な構造を持ち、効率的な国際輸送を実現しました。これは特にアメリカ市場での販売を念頭に置いたものであり、ジョン・スチュアート社を通じて広く流通しました。こうした輸出志向の戦略は、デンマーク家具を世界的に普及させる原動力となりました。
素材には高品質なチーク材と真鍮が用いられています。チーク材の加工には高度な機械技術が導入され、真鍮は構造的役割を果たすと同時に視覚的なアクセントとして機能しました。結果として、FD579は職人技と工業化の両立を象徴する作品となり、デンマーク・モダンの国際的評価を確立する一助となりました。
このテーブルは、軽快さ、構造的安定性、そして誠実な素材表現を兼ね備えた傑作であり、今もなおモダンデザイン史の重要なマイルストーンとして高い評価を受け続けています。